第14話
ぴ
「――はい。帝国魔導特務局主任、アルドリック・シュタール。」
≪突然のご連絡恐れ入ります、黒き月。≫
「……セヴェリウスか。どうした。」
≪暗務局及び異端審問教会局員、一部を除いてラグナレイズ帝国に上陸致しました。≫
……。
「……ん?」
≪暗務局及び異端審問教会局員、一部を≫
「いいや、聴こえなかった訳ではなくてだね。」
≪おぉ、それは何より。少し気は抜けたかな、黒き月。≫
「かなりごっそりね。それで……何だって? もう上陸した?」
≪あぁ。……ここは随分と気味の悪い土地だな。空も海も大地も汚染されて魚1匹、鳥1匹おらん。≫
それ以上に自分自身が異常で異質である事への自覚はまるでないらしい、この狂人は。
先にAZOTHへ命令しておいた《カローン》ですらもようやっと《黎閃》に追い着き、周辺の海洋生物を超深海かつ《黎閃》のレーダーに引っかからない位置での狩りを始めてまだ1時間にも経っていない。……セヴェリウスに、暗務局及び異端審問教会に誰よりも先にラグナレイズ帝国に強襲するよう伝えたのはその後だ。
なのに、この狂人はもう既に着いたという。
一体どんな絡繰を使ったんだ、こいつは……。
「……セヴェリウス。ヴィクトルの船でも未だ、4日の短縮にしかなっていないんだが。」
≪十分ではないか?≫
「それ以上の事を君が行ったと報告したんだよ、つい先程。……どんな手を使った?」
≪アイゼンベルクの作った魔導大陸間ミサイル《プルート》の弾頭に局員を載せて撃ち出した。≫
やる事がなかなかに強烈である。
まぁしかし、理論としてはそう出来なくもない。……それ相応の結界展開技術や速度、硬度が必要になる上、船を移動させながらであればAIMの問題も関係してくる。
能力面に関しては、第2の特務局と呼ばれる暗務局及び異端審問教会の異常さや異端さとしては申し分ない。
……全く、恐ろしい奴だ。
「セヴェリウス、ヴォルカ特務官は?」
≪それらしき空母が遠くにようやっと見えてきた。一応、もう既に我々が戦闘自体は始めているが……随分と大きな国でな。大陸全てが1つの国らしい、私も初めて足を踏み入れたが領土に関してはアウレリウス帝国を大きく上回っておる。≫
「戦力的には?」
≪……数ぐらいだな、脅威は。兵器も軍隊もまるで歯応えがない。これが、本当にあのヴォルカの恐れた悪しきラグナレイズ帝国か疑いたくなる。≫
「……。」
「あぁ、AZOTHか。構わないよ、通信相手はセヴェリウスだ。君も混ざりなさい。」
「……当機子機:《メルクリウス》の命令失敗をお詫び申し上げる。」
ん?
「失敗? 君が?」
≪珍しい……いや、初めてじゃないか? AZOTH、何がお前の邪魔をした?」
「……回答:環境。アルドリックより拝命した非敵性海洋生物の誘導に失敗。ラグナレイズ帝国の重度汚染海域を本能的に回避、進路調整……不可。」
どうやらセヴェリウスが居る国も、AZOTHもとい《メルクリウス》が命令に失敗した国は。海域はラグナレイズ帝国で間違いなさそうだ。
AZOTHとしても、色々と思う所があるのだろう。両手の指の腹を合わせ、トン……。トン……と何度も一定のリズムで打ち合わせる人差し指からはなかなかにAZOTHが感じている不甲斐なさの強さを物語っている。
たまにそういう事をするから、君を時々機械とは思えないのだけれどね。
「AZOTH、今回の件は仕方ない。よく調べもせず、君に全てを任せて無責任に命令を下した私の落ち度だ。そう気に病まなくて良い。」
≪AZOTH、こちらでもこの国の異常性は確認している。それでも対応しようとした君の献身は神にも……君の創造主にも正しく届くだろう。きっと、感銘を受けられる。≫
「……当機は命令遂行に失敗した。」
「今回の命令は最初から為す事の出来ない命令だった、それだけだ。だが……そうだね。君がどうしてもと言うのであれば、今後に控えている神としてヴォルカ特務官を救う任務。あれを完璧にこなしてくれればそれで良い。」
「了解。」
≪全く、AZOTHは時々ASIとは思えんな。≫
「恐らく、特務官を陰から見守る過程で学んだんだろうね。良い傾向だ。」
≪本当に我らが神の実力には恐れい……。……おい、待て。ヴォルカ? 何を考えている?≫
「セヴェリウス?」
「当機子機:《メルクリウス》より報告。護衛対象:イリス・ヴォルカがラグナレイズ帝国所属大型魔導空母の操縦桿を航行速度最大の状態で……大破。該当空母、制御不能。速度を上昇させながら航行中。進路予測……数秒後にラグナレイズ帝国軍港に乗り上げる。」
「待て待て待て、流石に勇まし過ぎないか。セヴェリウス。」
≪……流石にあんな巨体を止められる装備は持ってきてはおらなんだ。≫
「AZOTH。」
「……対処不可。既に該当空母は《メルクリウス》搭載の触腕展開速度を過剰にオーバーしている。当該空母停止は《メルクリウス》本体での突進以外に対応不可。しかし、突進時に深海から急浮上する為、当該空母内に搭乗している護衛対象:イリス・ヴォルカに甚大なダメージが予想される。」
「全く、あのじゃじゃ馬娘は……!!」
通信機の先、セヴェリウスの通信機に全てを劈く轟音が鳴り響く。ありとあらゆる物がひしゃげ、爆発し、それでも悲鳴がどれも大人の声であるのは……進路上に位置するラグナレイズ帝国の異常性を物語っている……つもり、なのだろう。
≪……ふむ。港から皇城の玄関ホールまで乗り上げた上に突っ込んだな。一応、ヴォルカ特務官が離脱の上、元気に走り回りながら敵を殲滅しているのが目視で確認出来ておる。救助はまだ必要なさそうだ。≫
「…………当機子機:《メルクリウス》が目的地:ラグナレイズ帝国……。……ラグナレイズ帝国“元”軍港アーシェに到達。領海内を巡回し、待機中。」
……。
「……本隊と特務局が辿り着く前に全て終わっていそうな勢いなんだが。」
≪……。≫
「……。」




