第13話
「……《アイテール》。」
声は返ってこない。しかし、反応は返ってくる。
制圧した空母で航海を始めてそろそろ12日。ラグナレイズ帝国周辺の海域は全て彼らが日々排出している有害物質の影響で海が黒く染まり、無駄に高い煙突から吐き出される有毒ガスの所為で空ですらも黒く染まる。
よって、この海域には空の生物も、海の生物も基本的には近寄らない。最早……ここは、地盤ですらも汚染されている。
そんな、ようやっと現れた異変で少しだけ調子を取り戻しつつ。空間拡張魔術の中に放り込んでいた《アイテール》を取り出し、――敢えてサーペントフォルムのまま掌に乗せている。
元々の構造が水銀である為、どう頑張っても発声機能を搭載出来なかったそれだが、それでも本物の動物のように丸くなったり。言葉に反応したり。もっと動物的な行動は取れるように改良はしておいた。
その為、イリスの掌の上でイリスに名を呼ばれ、こてん、と首を傾げるその《アイテール》が……今のイリスには、癒しとしてあまりにも優秀過ぎる。
……可愛い。
「《アイテール》。」
「……?」
「《アイテール》。」
「?」
「……ふふ、《アイテール》。」
傍から見れば、十分気が触れているだろう。それでも今のイリスにとって、これ以上の癒しもなければ楽しみもないのだから虚しい事この上ない。何なら、それを突っ込む人物すらもここには居ない。……深海に居る、《メルクリウス》ですらも。
【……[……識別コード:MERCURIUSより親機:AZOTHへ。非敵性海洋生物の誘導に失敗。原因:重度の水質汚染による強固な拒絶反応による進路の調整……不可。当機追尾中:ラグナレイズ帝国所属大型魔導空母内、当護衛対象:イリス・ヴォルカが愛銃:水銀性無形兵装 《アイテール》……。……愛銃:水銀性無形兵装 《アイテール》を愛でて精神異常回復中。……否、精神異常深刻化? 親機:AZOTHへ判断を乞う、OVER。]】
【……[………………………………? ……親機:AZOTHより個体識別コード:MERCURIUSへ。報告の意図が理解出来ない、再度の報告を乞う。OVER。]】
【……[………………識別コード:MERCURIUSより親機:AZOTHへ。非敵性海洋生物の誘導に失敗。原因:重度の水質汚染による強固な拒絶反応による進路の調整……不可。当機追尾中:ラグナレイズ帝国所属大型魔導空母内、当護衛対象:イリス・ヴォルカが愛銃:水銀性無形兵装 《アイテール》を愛でて精神異常回復中。精神状態異常の有無判断……非常に困難。親機:AZOTHへ判断を乞う、OVER。]】
【……[…………………………………………ん?]】




