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『帝国魔導特務録』  作者: 夜櫻 雅織
~ヴォルカ特務官と神代の怨嗟~

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第9話

「イルメリナ嬢、医療品はこんなもんでええやろか。」

「うん、大丈夫! とりあえずそれ運んじゃって、それが終わったら食料運び込まなきゃ!」

「ん、任せとき。」

電磁パルス(EMP)爆弾、これぐらいで良いかなぁ。それとももっと強力なの作った方が良い?」

「ばーか、お前だったら現場で直ぐ作れんだろ。道中で化け物に投げるだけの分なんだから変に強力なの作られ過ぎて暴発されたら話になんねぇ。」

「はーい。」

「解析キットはこんな物かな……。ヴィクトル、リュウセイ種はどうする。あの子達なら海上での戦場も容易だろう?」

「あ~……。そうだな。4匹までなら。」

「4匹か、了解。連れてこよう。」

「ノア、こっち来い。特務官に着任して早々戦争で悪いが、お前は物資の搬入よりも色々見て憶えてもらわねぇと困る。得意だろ?」

「はい、頑張ります!」


 戦争。イリスを取り戻す事にばかり焦点が向いて失念していたが、確かにこれは戦争だ。しかも、アルドリックの話を聞く限りだとただイリスの奪還を行うだけの戦争ではなく、国家同士の因縁もあるらしい。

 ばたばたと慌ただしく他の特務官達が物資を搬入する中で、ヴィクトルに呼ばれて「黑棺(ブラックボックス)」を後にする。まだまだ特務官となって浅いノアは……まだ、「黑棺(ブラックボックス)」内の事も。その周辺の事もあまり知らない。

 これまでずっと「黑棺(ブラックボックス)」の前面と1階層や2階層、3階層程度しか探索した事がなかったが、この「黑棺(ブラックボックス)」には裏手に巨大な軍港がある。……この、「黑棺(ブラックボックス)」とそこで生活する特務官達の為だけに用意された軍港が。

 規模こそは「黑棺(ブラックボックス)」に劣るも、その軍備は帝国が本来保有している軍港の防衛設備を大きく上回る。それもこれも、ヴィクトルという工廠に特化した特務官の存在が大きい。


 ミサイルにEMP照射機、あんなにでかい魔導砲台まで……!!


「“黑棺(ブラックボックス)”拡張設備、リヴァイ軍港。インフラは全部“黑棺(ブラックボックス)”から支給されててな、あそこにあるEMP照射機が仮に暴発しようともインフラには影響が出ないように設計してある。……まだ発生しちゃぁいないが、何処ぞの馬鹿な敵が俺達の鎮圧を狙ってあれを破壊した瞬間の為に仕込んであるカウンター機能がまともに機能する瞬間が楽しみで仕方ねぇ。」

「でかい……! でも……あれ? 今回俺達乗る船は何処にあるんですか?」

「あぁそうか、お前……暗務局の人間だったな。じゃああんま戦艦その物に乗った事がねぇのか。」

「はい。戦艦は教範でしか……。」

「なら良い機会だ、しっかり見とけ。」


 恐らくヴィクトルのみが利用し、開発を重ねているであろうリヴァイ軍港。その真ん中、数歩歩けばそのまま海に突入するような位置にある黒い鐘。そこから伸びる鎖をヴィクトルが引く。

 ゴウン、ゴウン、とまるで聖堂の鐘のような音が、鎖からヴィクトルが手を離した今も鳴り響く。……まるで、何かを呼ぶように。


「確かにお前の言う通り、数年前まではまだ人間が操縦する船が主流だった。けどよ、今となっては何かしらのアクシデント……侵入者とか。巨大な海獣に襲われた際、乗組員が戦闘に集中出来るように自動航行機能を搭載する事が義務付けられ、もう1つ必ず搭載しなければならない機能が追加された。」

「もう1つの義務付けられた機能……?」

「――潜水機能。軍用船は、必ず水中や海岸沿いに建造された専用の格納庫に格納しておく事が義務化された。海上に並べた良い的なんて、この国には必要ねぇのさ。」


 きっとあの鐘はこれを呼んでいたのだろう。独りでに海中から海面を押し上げ、脇に水を撫で下ろしながら蒼い結界のような物に包まれた空母にしては小さく、戦艦にしては大きな黒い船が顔を出す。

 船の全体が海面に浮上し、纏わり付いていた海水が全て流れ落ちたのをきっかけに結界が剥がれて……その全容が露わとなる。

 弾丸のような鉄色に輝く船体に、魔力か結界を纏わせているのか常に水色の光のような物が何度も脈打っているような外殻。この場所からは船の後方しか見えないが、徐に港へ近付いてきた船は船尾の巨大な隔壁がまるで海洋性の化け物が口を開くように、布が中央から渦を描くように外側へと少しずつ開く。

 中はリュウセイ種が10匹乗ろうとも余裕がありそうな広さで、奥にエレベーターや階段が幾つか見える。


 っ……!!


「主力魔導複数型動力炉搭載モデル、掃海駆逐艦 《黎閃(アイゼンバーン)》。俺が建造した船の中で一番速くて一番兵装積んでる軍用船だ。」

「かっこいい……!!」

「……ふんっ。ほら、こっち来い。中も見とかねぇとな。」

「あ、はい!」


 外もかっこいいが、中もなかなかにかっこいい。ただ色んな所に固定用のワイヤーがぶら下げてあったり、武器などをしっかり固定する為の設備などもしっかり施錠されていてなかなかに実用性に溢れている。

 そんな船尾から《黎閃(アイゼンバーン)》へと乗り込み、外からも見えていたエレベーターに搭乗する。


「この船は格納庫が3つあってな。中腹と船首にも、横から入れる格納庫がある。その上の11階層から15階層までが全部倉庫。俺達が実際に生活したり、色々作業すんのが16階層から25階層までで、26階層には開閉式の天井が着いてる。ま、26階層はあくまでただの戦闘機が着陸出来るようの滑走路だ。今回はあんまり使わねぇだろうけどな。」

「軍用船って、こんなに格納庫が複数ある物なんですか?」

「いいや? 代わりにでかいのが1つ着いちゃあいるが……俺としては、どっかで発火したらそのままその格納庫全体に火が回って使えなくなり、何ならそのまま船全体に炎が充満する。それじゃあでかくても意味がねぇから敢えて複数個の格納庫を作って、それぞれ地下から行き来出来るように設定したある。格納庫と倉庫の間も隔壁が幾つかあるし、空調機能も別にしたあるから少なくとも格納庫が発火した程度で他にも2つ格納庫が生きてるし、上階層へ火が回るのも防げるから格納庫が2個やられるまでは避難の必要もねぇ。もし仮に避難が必要になったとしても、そんなに急がなくて良いから安全かつより離れた所まで救命艇を降ろせるようにしたある。」

「さっき主力魔導に対して、複数型動力炉って仰られてましたけど……。」

「……よく聞いてるようで何より。この船は魔導炉……魔力を燃料にして稼働する炉の他に、原子炉とバイオマス炉、水縮炉(すいしゅくろ)って言って水を収縮して圧縮しを繰り返させる事で自然と渦潮みたいなもんを作り出させて発電する炉が搭載されてる。船が動くって事は必然的に波が出来て、若干の渦も出来るからな。微力ではあるが……それを意図的に起こさせる事で安定した電力源に変換してる。ま、これは俺じゃなくてエリクスの発明だがな。あいつはこの帝国のエネルギーインフラ―の祖だからな。」

「それでもめちゃくちゃ凄いですよ……! あれ、じゃあディーゼルエンジンとかも……?」

「一応搭載してはいるが……如何せん、他の炉に比べると燃費が悪い。バイオマス炉に関しては腐った食糧やらたまぁに船に引っかかる海藻とかも放り込むからほぼ無限だしな。わざわざあんな重たい液体の為に場所を用意するのが億劫で仕方ねぇ。」

「あの、後で色々もっと探索して良いですか?」

「まぁ……良いけどよ。但し、動力炉って書いてるプレートの区画には入んなよ。」

「了解です、艦長。」

「……辞めろ、恥ずかしい。そんで? お前、荷物は。」

「ヴィクトル先輩……俺は元暗務局の人間ですよ? 荷物なんて軽くてなんぼですし、以前ヴィル先輩に戴いた空間拡張魔術(マジックパック)で事足りてます。元気も有り余ってますし、好きなだけこき使ってください。」

「ほーお? 言うじゃねぇか、新人。初回だから優しくしてやろうと思ったが……止めだ止め。今直ぐ“黑棺(ブラックボックス)”に戻って荷物の搬入手伝ってこい、俺はこっちで諸々やる事があるからな。」

「了解です!」

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