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『帝国魔導特務録』  作者: 夜櫻 雅織
~ヴォルカ特務官と神代の怨嗟~

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第8話

「……はぁ。……はぁ。……はは、生きてる。」


 なら……やれない事もない、か。


 正直、あそこで《ノクス》を置いてきてしまったのはなかなかに痛かった。てっきり、こいつらの事なので証拠は全て持ち去ろうとすると思っていたのに……どうやら、しばらく見ないうちに随分と知能が下がったらしい。

 魔導航空機が空母へと着陸し、船へ運び出される頃には起きていたイリス。それでも、少しでも計画を完全な物とする為に本来であれば5階層目に存在する収容室の道中に来て、咄嗟に空間拡張魔術(マジックバック)の中から《ワイルドハント》と《ワルプルギス》を取り出し、イリスを運んでいたラグナレイズ帝国軍の兵士が反応する前に《ワイルドハント》で撃ち抜いた。

 それからは……戦闘の連続だ。《ワイルドハント》で撃っては配下とし、仲間内で殺し合わせながらもあからさまな研究者や魔法職に関しては《ワルプルギス》で撃ち抜いて体内の魔力を急速に逆流させ、破裂させて死に至らしめた。

 不要になった仮の配下には全員、自ら首を刎ねるように言い渡した今、この空母で息をしているのはイリスだけだ。


 ……特務局でもさせないぞ、こんな過酷な戦闘。


「進路……ラグナレイズ帝国の自動操縦。海獣用忌避周波数……正常機能。でも、たまに抜けてくる奴居るから……気を、付けないと。」


 ……ぁ。


 激しい連続戦闘が厳しかったのもあるが、回収時にほぼ零距離で撃ち込まれた強烈な麻薬に近い鎮静剤のお陰で若干視界が霞む。多少の不安は残るが……このままの状態で空母を手動制御に切り替えるのはなかなか無理がある。


 ……ヨハンが、居れば。


「……ちょっとだけ。ちょっとだけ……だから。」


 ……先はまだ、長いんだから。


 少し離れた所にある休憩用のソファに背もたれの方を向くようにして身を横たえ、少し仮眠を取る事にした。……そんなイリスの影から、白銀色の骨格だけの腕が音もなく。静かに顔を出す。

 疲労から深く眠っているイリスは気付かない。むしろ、その腕が作業中に目覚めないよう、そっと背後から背中にやんわりと触れ、零距離からじんわりと。人肌で温めるようにして本来であればイルメリナの専売特許である癒しの波長を打ち込む。

 一度は驚いて反射的に体が跳ねた物の、直ぐに深い眠りに落ちて浮かび上がってくる事はない。それでも、そんなイリスを少しでも安心させるようにその手は一定のリズムで優しく背中を摩り続けている。

 また、もう1本イリスの影から腕が伸びてくる。今度はそっと床を撫でながら壁まで移動し、壁を指で撫でながら見つけた空調を少し弄る。本来であれば何処かから毛布を持ってきてはイリスに掛けてやりたい物だが、それだと起きた時に余計な不安を抱かせてしまうからだ。

 目的を果たした腕は静かに影の中へと消えていき、イリスの背を撫でていた手も影の中へと消えていく。

 この空母の真下に当たる深海ではほぼぴったりと着いてきている、AZOTH(アゾート)の遠隔同調でほぼ思考も情報もリアルタイムでアウレリウス帝国に居る本体と同調している《メルクリウス》が居る。……同様にこの機体に搭載された捕食能力により、先程から悉くこの空母と《メルクリウス》に近付く海獣はほぼ全てがこれに喰われている。

 それをイリスが知るはずもなく、先程海獣用忌避周波数システムを確認していたが……所詮、そんな物に価値はない。むしろ、深海に居る《メルクリウス》はその周波数を感知する事で海面にあるこの空母の正確な位置を割り出している。

 それでもラグナレイズ帝国行きを阻止しないのは……あくまで、そういう司令が出ているからに過ぎない。


【……[個体識別コード:MERCURIUSより親機:AZOTHへ。保護対象:イデア・ヴォルカの安全を確認。当機追尾中:ラグナレイズ帝国所属大型魔導空母内の生体反応……イリス・ヴォルカを除いて確認出来ず。当護衛対象が殲滅したと予想。命令更新の有無を乞う。OVER。]】

【……[親機:AZOTHより個体識別コード:MERCURIUSへ。命令更新……存在せず。継続し、護衛対象:イリス・ヴォルカの保護及び支援、当該魔導空母の追尾、航行ルート上の安全確保を命ず。OVER。]】

【……[個体識別コード:MERCURIUSより親機:AZOTHへ。了解(ヤヴォール)。継続して命令を遂行す。OVER AND OUT。]】

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