第6話
「……ラグナレイズ?」
「……えぇ。15年前、アウレリウス帝国を襲撃した……あのラグナレイズ帝国。彼の国が今回、イリス・ヴォルカ特務官を拉致したと当該国のみが保有するロザリオから確信致しました。」
「……ラグナレイズ。」
いつも、何処か余裕の溢れるアルドリックだが……今日ばかりはそうもいかない。目的地が同じだからとノア、ヴィルヘルム、セヴェリウスで戻ってきた「黑棺」。
一般人であれば何事かと、ここに唯一居ないイリスの安全を心配する声が溢れ返る事だろう。しかし、ここは特務局。誰もが何かしらの軍隊や国家に関連する組織に所属していたのもあって分かり易く取り乱す者は居ない。……居ない、はずだった。
セヴェリウスからの簡潔に纏められた説明を受けたアルドリックが、取り乱している。
ソファにどかり、と座り。酷く怒りの滲んだ表情をも何とか喰い殺そうとして余計に青筋が強くなっている。それでも、物を壊し過ぎてはならぬと吠える理性で尾が暴れぬように抑えつける様は
シュタール主任と言うより……軍人のような。
「……それと。1つ、不幸中の幸いが。」
「……?」
「イリス・ヴォルカ特務官に例の聖遺物を持たせる事に成功しております。」
聖遺物……?
「……あの笛か。」
「左様にございます。」
「それならまだ……いや、そもそもあの子が吹くか……? かと言って……。……………………いや、それに関してはもうあいつに期待するしかない、か。後はこっちで……。」
「……シュタール卿。ご命令さえあらば、我々異端審問教会及び暗務局は何処へでも参ります。」
「……アルドリック・シュタール特務官の特権として貴様ら異端審問教会及び暗務局に帝国軍とは別機動で活動する事を全面的に許可する。貴官らはアウレリウス帝国先鋒として準備が出来次第直ちに出発し、ラグナレイズ帝国上層部関係者を可能な限り捕縛。困難な場合は即刻、その場での処刑を命じる。但し、ラグナレイズ帝国皇族は両足を切り落としてでも生きたまま捕縛しろ。……奴らには15年前の清算も含め、惨たらしく死んでもらわねばならん。」
「ご命令、拝命致しました。直ちに準備し、30分以内に出立致します。」
「宜しく。……さて。」
セヴェリウスへの命令を終えた今も、そこにいつものアルドリックは居ない。先程よりは多少殺意も怒気も抑えられた物の、その代わりと言わんばかりに瞳の奥から一気に射貫いてくるような鋭い視線は健在だ。
それでも、多少の気持ちの整理が着いたのだろう。ソファから立ち上がったその背中に迷いはない。
「帝国魔導特務局所属の特務官、総員に告ぐ。これより特務局はイリス・ヴォルカ特務官奪還の為、ラグナレイズ帝国に強襲する。使用軍用機は全てヴィクトルの物を使用し、電子機器は全てリヒター特務官の管理下にある物とした上で、諸君らにもアルドリック・シュタール特務官の特権として帝国軍とは別機動でのあらゆる行動を許可する物とする。――直ちに支度を済ませろ。」
「……おう。」
「了解。」
「……とりあえず、そんだけ手練れなら魔導回路も多いだろうし、結界も多いだろうな。そっちの破壊も考えとかねぇと。」
「まさか、久々の戦争がイリス嬢の奪還。更にはシュタール卿の因縁の国とはなぁ……。何かしらの因果を感じるわい。」
「僕、向こうに着いたらとりあえず電子機器ぜ~んぶショートさせちゃおっかな~……。……あ、水中に逃げられないように周辺の海域全部帯電させちゃおっか。」
「ノア君達が集めた情報的に、あんまり少年兵は普通に殺しちゃ駄目なんだよね。じゃあ……そっちは私が優しく殺してあげよっかな。心臓を止めるだけならエリクスじゃなくても私にだって出来るし。」
「……イリス先輩。」
「それと、君達の目的はラグナレイズ帝国の滅亡でも王族の鹵獲でもなく、イリス・ヴォルカ特務官の回収――ただ1つ。それが完了次第、即時本国に帰投しろ。」
え、
「良いのか? 俺らが居る方が、楽に終わるぞ。」
「楽に終わらせる気がないから要らん。……今回ばかりは私も腹に据えかねる物がある。貴官らに見せられない物も多いからな、早めに目的を済まして後方へ下がってもらわんと巻き込む。」
「……そりゃあ急がねぇとな。」




