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『帝国魔導特務録』  作者: 夜櫻 雅織
~ヴォルカ特務官と神代の怨嗟~

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第5話

「……出来れば死体じゃなくてイリスを置いていってくれれば良かったんだけどねぇ。」


 誘拐地点に辿り着き、幸か不幸かその場にあるのは死体だけ。伏兵の類も、爆弾(置き土産)の類も用意されていない。……敵は、相当計画してきたんだろう。


 でも、イリス先輩が抵抗しなかったのは……読めてなかった。


 まるでここだけ隕石でも落ちたのかと疑いたくなるような、抉れた大地。その爆心地を中心にして円状に倒れる敵は……恐らく、初撃で死んだんだろう。その他にも壁に打ちのめされて絶命している敵、中には首をかっ捌かれている敵と、いずれも敵に与えている攻撃の手数は1発。……やはり、イリスが元暗殺者という話は本当らしい。


「相変わらず惚れ惚れする手際…………? ノア、こっちに。」

「ヴィル先輩、どうされました?」

「……子供だ。」


 ヴィルヘルムによって顕になった、敵の顔は――あまりにもあどけない、無垢な子供の顔。なのに、その表情は何処か安らかで、少ししたら目を覚ましそうだ。

 試しに他の死体のフードも外していくが……どれも子供,子供、子供。まだ2桁に行って間もなさそうな子供達が、皆……まるで救われたかのような表情で死んでいる。


「国家直轄か、教会直轄かは分かりませんが暗務局(うち)と似た雰囲気を感じます。」

「けど、これだけでは何とも……。」

「あ……! ヴィル先輩、こっちにイリス先輩の私物があります!」

「何、せめて怪我の……。……ちょっと、待って。ノア、君が持っているのは……。」

「……《ノクス》。イリス先輩の愛銃です。」


 きっと、ここで最後の戦闘が行われたんだろう。これまで銃殺やナイフでの殺傷が多かったのに、イリスの私物が落ちていた地点の死体は……絞殺だ。

 死体はこれまでと同じく子供。ただ、その頬にこの死体の物ではない涙の跡や服のよれ具合からきっと、イリスは跨るようにして首を絞めたのだろう。……涙を、流しながら。

 この場所には《ノクス》の他にも恐らくイリスの物であろう煙管と。……死体の手に握られ、懐に力なく倒れている大口径の黒い銃が見える。


 これは……?


「……。」

「……随分大口径の銃だね。少なくともそれなら……周りに不気味なぐらい血痕がないし、イリスが撃たれては」

「いえ、撃たれてます。」

「え? いやでも、血痕なんて」

「ヴィルヘルム先輩、この弾倉(マガジン)見てください。……中に入ってるの、薬品です。」

「……へぇ。首を絞められながらイリスの懐に向けて薬品が込められた弾を発破。しかも、場合によってはそのままあの回収班を呼んだ可能性も……。なかなか攫い慣れてるじゃないか。ノア、薬の種類は?」

「ここでは何とも……。少なくとも、どの薬品だとしても一般人に投与する量を遥かに超えているのでイリス先輩専用か、或いはそれを前提とした量や薬品である可能性が高いので……多分、帝国に存在するどの薬品ともデータベースが一致しない可能性があります。」

「……まぁ、イリスが裏切っていない事が知れただけ良いか。他には?」

「変なロザリオ持ってますね、この死体だけ。」

「ロザリオ……? どんな?」

「これです。」


 死体の首からそっと取り出された、メビウスの輪が2つ交差するように絡められた子供の体にはかなり大きなロザリオ。どうやらメビウスの輪自体は水銀で作られているようで、その中央にある十字架はオニキスで出来ているようだ。


 無駄に金掛けてるなぁ……。何だこれ。


「……。」

「ヴィル先輩……?」

「ローゼン! アルヴェルト!」

「主教様……! どうしてこちらに!?」

「シュタール主任より招集命令が下った。これからそっちへ行く途中だったが……やはり、あの航空機がここで何かしたのだな?」

「はい。特務官、イリス・ヴォルカが国籍不明の勢力に連れ去られました。……恐らく、抵抗の後にこの薬品銃で無力化された上で。」

「全く……。あの生意気な小娘め、もう少し証拠を」

「セヴェリウス・アスタロト。……ノアが持っているロザリオに見覚えは? 俺は、出来れば知らないと言ってほしいけれど。」

「ロザリオ……?」

「これです。」


 突然空気が重くなり、固まっていたはずのヴィルヘルム。先程まで普通に話していたセヴェリウスが、共に沈黙する。

 唯一力不足故に理解の追い着かないノアだけが2人の顔を数度眺めて


「――ラグナレイズ帝国。こことは違い、皇帝が唯一教の設立を命じ、同じく皇帝を唯一神とする軍事帝国だ。ここから……4つの海と3つの大陸の先にある。」

「4つの海と3つの大陸……!!? ほぼ真裏じゃないですか!」

「ここから行こうと思えば、幾ら先の魔導航空機でも1週間はかかる距離だ。船ならもっとだろうが……。」

「……そもそも、あんな魔導スラスターじゃ燃料が保たない。」

「あぁ。この帝国近郊か、大陸周辺に空母があるだろうな。それなら……ここまで来れなくもないが道中の海域はどれも凶暴かつ強大な海獣共の巣窟だ。半端な兵器では通らんぞ。」

「壊して良い物ならヴィクトルの魔導砲に穿てない物はないさ。……ノア、行こう。イリスを迎えに。」

「っ……! はいっ!」

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