第3話
「ヴォルカ、この後は何処へ?」
「……“黑棺”。出来れば……あそこが良いから。」
「そうか。ならばヴォルカ、お前にもう1つ伝える事がある。」
「……?」
「アルドリックがお前をお待ちだ。必ず会って話をするように。」
「……分かった。」
「……ヴォルカ。」
「……?」
「笛の件、くれぐれも怠るでないぞ。」
その返事は、敢えてしない事にした。
正直、こんながらくたがイリスを救ってくれるなどまるで信じていないのだ。もし、もしもこれが本当に何かしらの力を持っていて、イリスを救えるのだとしたら……それこそ
「…………何で、もっと早くに救ってくれなかったの。」
やはり、希望を口にすると奴らはやってくる。全てを押し流し、呑み込み、そのまま握り潰して思想を。自我を絶やす為に。
大聖堂から少し離れ、一応もう皇城の敷地内には入っているがそれでも「黑棺」はかなり端に存在する。どうしても、皇城の敷地内だからこそ自然と人目を憚られてしまう警備上の欠陥範囲は多い。
現に、イリスが1人になるのを待っていたのだろう。何処からともなく現れた……イリスよりも背格好の小さい。いや、遥かに小さい……子供の背丈の黒いローブで身を包んだ者達が10人、輪を描くようにそこに居る。
……まだ、待ってほしかったんだけどなぁ。
「……私、皆の名前……考えてたんだよ。番号なんて物みたいな名前じゃなくてさ、私が貰ったような……実験動物を辞められるような、名前。」
彼らは答えない。……彼らに、もう意思など存在しないから。
「……人の名前で呼ばれるって、傀儡から人になれたような気分がする。権利があって、自由があって、でも秩序や規則もある。……ただ、それに従うだけでそれらは得られる。痛くもない、辛くもない、食事を抜かれる事だって……訳分かんない薬打たれてのたうち回る事もさ。」
彼らは答えない。……彼らに、もう自我など存在しないから。
一向に回答のない彼らに、少し疲れた様子でイリスが溜息を吐きながらも徐に外套の内ポケットから煙草を取り出して火を点け、―― 一息。
「――個体識別番号E13534、改めイリス・ヴォルカ。本国からの帰投命令を断固として拒否する。……連れ帰りたいなら引き摺っていける程度にまで弱らせてみるんだな。」




