第2話
「おぉ、良し良し。ちゃんと逃げずに待っとったな。」
「……それは?」
「宗教を信じぬお前の事だ、聖遺物もまるで信じておらんだろう。」
「うん。」
「……全く、今日は調子が狂う。ほれ、よう見ろ。――これが異端審問教会が幾つか抱える聖遺物の1つだ。」
一度退出して戻ってきたセヴェリウスの手の中にあるのは……丁度、掌サイズの小さな宝箱。青銅か何かで作られているのか、あまり煌びやかというよりは歴史を感じるその箱が……開かれる。
中には、珍しい事に白いクッションの中に沈む――銀色の笛。何処か犬笛のようにも見えるそれだが、イリスが見るに特別何かしらの魔法が掛かっているようには見えない。……しかし
「……変な力の気配がする。」
「聖遺物とはそういう物だ。ヴォルカ、これをお主に貸し出す。」
「え。」
「これを賜って以来、まだ一度も使われた事のない聖遺物だ。……お主がこれから何をしでかすつもりかは知らんが、お主の覚悟に比べればこんな物はある意味、些事のような物。お主が全てを終わらせるその時か、又は本気で我々以外の宗教をどうしようもなく滅ぼしたいと願った時。――一度で良い、これを吹け。」
「……。」
「……言わんとしている事は分かるぞ、ヴォルカ。そこまで分かっているならなくすかもしれんような奴に、そんな大切そうな物を渡す思考回路が分からんなどと不遜な事を言おうとしているんだろう、お主は。」
「……。」
「……だからこそ。だからこそ、お前に貸し出す。たった一度で良い、こんな狂人の戯言だと、そしてくだらない宗教などという思想統一及び洗脳文化からの馬鹿々々しい程に鬱陶しい戯言でも、この際何でも良い。――時が満ちた時、これを吹け。」
「……とりあえず、受け取る。受け取らないと帰らせてくれなさそうだし…………。それで……これ、吹いたらどうなんの。」
「我ら異端審問教会の神髄を見る。信仰心などという無形の物ではなく、形ある物で我ら異端審問教会の純粋な力を見せてやろう。……どうだ、信仰心などよりは面白そうだろう?」
「……まぁ、そうかもね。」
「……良いな? たった一度で良い、必ず全てを終わらせる前にこれを吹け。それか、全てを終わらせる為にこれを吹け。これは神器であり、福音だ。」
「……私は無宗教だ。」
「これでも私は寛大な性格でな、他宗教は許さんが無宗教には異端審問教会を信仰する者と同様に施しを差し出すべきだと聖典に定めている。そして、お主は特務官だ。我ら異端審問教会が唯一神とする皇帝アルヴァリウス・セラフィス・アウレリウス陛下がその自由と、権利と、そしてその存在を認めたもうた稀有な存在。――我ら異端審問教会には、己が命を盾にしてでもお主ら特務官を護る義務がある。」
……聞いた事ないなぁ、そんな義務。
胸の内ではそう思うも、それをわざわざ口に出してやる気は……今のイリスには、ない。
とりあえず、受け取ってしまったからと付属している紐を首から掛け、所詮はただのお守りだろうと。騙されたと思って使ってみた所で、何も変わらないだろうと思いながら、心臓を狙う弾避けぐらいにはなるだろうと服の中に隠す。
「……………………終わったら、返す。色々……重いから。」
「ではその約束が必ず遂行される事をここで祈ろう。……ここは神の家、大聖堂で為される約束は必ず果たされなければならぬ。」
「……はいはい。」
「笛をたった一度、吹く事も約束に含まれているからな。それに、その笛の力は強力だ。吹けば異端審問教会でなくともそれが行使されたと分かる物だ、嘘ごまかしは効かんと思え。」
「……こんな古い金属の塊にそんな力があると思えない。」
「言っておるだろう、騙されたと思って一度使えと。それは我ら異端審問教会の純粋な力だと。過去、アルヴェルトの実力を一目で見抜けなかったお主がただ見ただけでその笛の絶大さが分かるものか。」
「……。」




