表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『帝国魔導特務録』  作者: 夜櫻 雅織
~ヴォルカ特務官と神代の怨嗟~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/69

第1話

「……お主がどう思うかはさておき、これまで私は主教として。そして、時に暗務局副主任として色んな人間を見てきたつもりだ。……私がまだ、皇帝陛下の名誉ある親衛隊としての肩書きを与えられていた頃よりも、遥かに。」


 異端審問教会拠点、皇城の敷地ギリギリの所に存在する巨大な大聖堂。その奥、とある談話室で普段であれば愛用している紅茶の茶葉ではなく、来訪者の舌に合わせてわざわざ珈琲を淹れるセヴェリウス。

 敢えてどうやって淹れているのかを見せつけるように、わざわざ目の前で魔法を使ってボトルに入った水の中に何も入っていない事を証明し。目の前で、カップにセットされた珈琲のドリップパックへとお湯が注がれる。


「それでも人とは面白い物でな。どれだけ意識して学ぼうと、感じようとしても理解に苦しむ感性という物がある。――ヴォルカ、お前のような存在がな。」

「……。」

「あぁ、勘違いせんでくれ。あれだけ教会を、宗教を嫌っていたお主がまさか自ら此方に赴く事があるとは夢にも見なかった物でな。……しかも、目的が私と2人で話をする事など。」

「……。」

「まぁ何はともあれ、折角来たんだ。……ゆっくりしていきなさい。珈琲のおかわりが欲しければ幾らでも用意しよう。」


 驚いてはいれど、それでも彼は異端審問教会の主教。何処かアルドリックのように余裕な態度を見せ、淹れたばかりの珈琲をイリスの前へ、そっと指でテーブルの上を流れるように差し出す。

 幾らセヴェリウスが手を尽くして何も入っていない事を証明し、どれだけ気遣ったとしてもイリスは決して気を緩めない。それ故、セヴェリウスも折角淹れた珈琲が数十分後には捨てる事になると重々理解しているのもあって、基本的にはインスタンスコーヒー以外をイリスには出さない。――なのに。

 ふと、徐にずっと沈黙と静止を貫いてきたイリスの手が……珈琲の入ったカップに手を伸ばす。

 思わずあのセヴェリウスですらも驚いたように目を見開き、様子を見る中で――あのイリスが、セヴェリウスに出された物を少し喉に通した。


「……お主、今日は本当にどうしたんだ。」

「…………お前に聞きたい事があって来た。」

「……まぁ、良いだろう。それで? 何が知りたい。」

「異端審問教会はこれまで、数多の宗教を死に追いやってきた。」

「そうだな。この世界に我々異端審問教会以外の宗教など、必要ない。だがしかし、向こうが此方に牙を剥いてこないのであれば我々とてわざわざ祖国を離れて強襲しに行く価値も必要性もない。……ただ、我らが祖国のこのアウレリウス帝国に土足で踏み込むのであれば惨たらしく喰い殺すまでよ。」

「…………セヴェリウス。宗教は……どう、喰い殺すのが正しい?」


 元よりセヴェリウスの用意した物に口を出すとは思ってもみられなかったイリス。それ故、薬もただではないので何も入っていない珈琲を飲んだというのに……そのイリスの瞳には、どす黒い物が見える。

 よく異端審問教会で利用される自白剤での、洗脳用の思考速度に異常をきたさせる薬の影響下にもない。そんな、薬物に侵されていないという意味では健常者であるはずのイリスの瞳の奥に、決して瞳から取り出す事の出来ない重く大きなどす黒い何かがそこに居る。


「……簡単に言うのであれば、要は存在の否定だな。」

「存在の……否定?」

「そうだ。“お前など存在しない”、“お前など神ではない”、“お前は自らのエゴを宗教で塗り固めて人々を殺め、迷わせ、苦しませ、食い物にするだけの化け物だ”と悉くを否定する。そして、言葉では折れぬ場合には……その偽の宗教が存在すると宣う全てを殺す。簡単な話、――偽の宗教を存続させうる存在を全て絶やすのだよ。」

「偽の宗教を存続させうる存在を……全て、絶やす。」

「そうだ。さすれば浄化は必ず成就される。それが、宗教の殺し方。」


 皮肉な物だろう。己も宗教を掲げる癖に、まさかその宗教を壊す為のやり方を伝授しろと求められるのは。

 それでも、所詮宗教なんてそんな物。誰かにとっての神は誰かにとっての敵でもあり、そして同時に誰かにとっての救いとなる事もある。そんな、二面性を持つ者が神であり、そんな最も不確かで不安定な物を崇拝するのが……宗教だ。

 それを、異端審問教会を起こしたセヴェリウスも重々理解している。それが、宗教の本質であると。――それでも、己が興した宗教は唯一教であると。

 その狂信こそが、その盲信こそが宗教のあられもない自然な姿なのだから。


「……なら。なら…………国1つがその偽の宗教を崇拝していたら?」

「滅亡させよう。赤子の1人も、犬猫の1匹も生かしておけぬ。それはもう、ただの悪腫瘍だ。悪疫は……取り除かれなければならない。」

「…………セヴェリウス。もう1つ、聞きたい。」

「幾らでも。」

「――その宗教が偽物かどうか、誰が決める?」

「己の信仰心が決める。そこに揺らぎあればそれは偽の宗教、必ず埋没させねばならぬ。」

「……はは、信仰心……か。……そう、信仰心ね。」


 乾いた様子で呟くイリスの瞳に、先のどす黒さはもうない。その代わり、そこにあるのは……呆れと、絶望だ。

 酷く疲れたような、何もかも面倒だとこのまま投げ捨ててしまいそうなその表情。何も背負っていないはずなのに、その背中に。その周囲を全て囲い込んで喰い殺さんとせんばかりの気配が、雰囲気が纏わり付いていてイリスの存在が……何処か、揺らいでいるように見える。


「…………ヴォルカ。少しここで待っていなさい。お前に渡す物が出来た。」

「……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ