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『帝国魔導特務録』  作者: 夜櫻 雅織
~アルヴェルト特務官と新人研修~

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第29話

「イルメリナ、イリスは。」

「落ち着いた。かなり眠りも深そうだし……しばらくは大丈夫かな。」

「イルメリナが居ると睡眠薬を使わなくて良いから助かるよ。」

「まぁ……仮に使ったとしても効くか怪しい所だけどね。」

「怪しい……?」

「イリス嬢はな、麻薬相当の薬でもあんまり効かんのや。」

「え。」

「確か……何だっけ? まだイリスがここに来て直ぐの頃、警戒心強過ぎて数週間寝てくんなかったイリスを寝かせようとして、失敗したんだっけ?」

「こいつ、魔法で水から睡眠薬の成分だけ取り出して純水だけ飲むとか。何とかイルメリナが料理に仕込んで摂取させたは良いけどまるで寝やがらなかったんだよ。」

「結局、アルドリックが何か不思議な魔法……?みたいなので寝かしたんだよね。」

「あれが本当に魔法なのか、俺はかなり疑ってるけどね。」

「俺も。……魔法にしては行使してる時の気配が何か違った。まぁ、あれこそ調べようがねぇだろうな。」


 やっぱり、イリスのこれは初めてじゃないらしい。そして、それを改善しようと既に何度かアクションを起こしては悉く敗れてきた記録も。

 そんなイリスは少し離れた所にあるソファで沢山の毛布や複数名の外套に身を包まれ、備え付けのクッションを枕に熟睡されている。依然として高熱の猛威はあるが……あの様子なら、一応は大丈夫だろう。


 イリス先輩をお部屋に戻さずここで話すって事は……。


「んじゃ、始めるか。」

「イリスの過去について、だね。」

「……良いのかよ、そいつが居る時に話して。」

「むしろこいつの分析能力がないとまずい。」

「……あぁそう。」

「それで、ヨハン。……どうだった?」

「ぜーんぜん。ヴィルヘルムの提案通り、異端審問教会のデータベースにも殆ど情報ねぇし、あるのはイリスに任せた事のある任務に関する情報ばっか。情報局もスカ。……ある1文を除いてな。」

「ある1文?」

「“イリス・ヴォルカ特務官の深層パーソナルデータの管理及び閲覧は帝国魔導特務局主任アルドリック・シュタール、同特務局副主任AZOTHのみ権限を付与する”。」

「……最悪だな。」

「んー……。アゾートの部屋、見つけ出してパソコン触ってみる?」

「駄目だ。絶対何か良くないもんを起こす。」

「かと言って、シュタール主任の部屋もねぇ……。」

「ヨハン坊、ほんまにお前さん……あのセキュリティ突破出来よらんのか?」

「無理。……つーか、部屋の扉すら開けられない時点でほぼ無理ゲーだろ。しかもあの扉、多分だけど閉めて勝手にセキュリティかかるもんではあるけどハッキングによる開閉のログも残る奴だ。そのログが何処に保存されて、どれぐらいの速度で書き換えねぇと再構築されるもんなのかも分かんねぇから危険過ぎる。」


 さらっと異端審問教会と情報局ハッキングされてる……。


 ヨハンのその発言を誰も疑っていない辺り、それ自体は別に不思議な事でも珍しい事でもないのだろう。それにしても……なかなかにえげつない事をしているのだが。

 しかし、先の1文からすると……イリスの情報は皇帝であるアルヴァリウスですらも彼らの協力なしには閲覧する事が出来ない事になる。……随分な警戒具合だ。


 部屋の位置が分からない副主任と、位置は分かってるけどほぼ突破不可な完全性を有するセキュリティ……か。


「あの、そのシュタール主任の部屋って……監視カメラありますか?」

「……なかったと思うけど。つーか、そんなの分かってもどうしようもねぇだろ。」

「俺やヴィル先輩の影に入り込める能力で中覗けないかなぁ〜って。監視カメラが中にないなら完全犯罪ですよ?」

「……うん。お前、暗務局の人間だわ。」

「素晴らしい提案をしてくれた所申し訳ないんだけど、実はチャレンジ済みなんだよ。」

「え、そうなんですか?」

「なかなか高度な結界が張られてやがってな。使用されてる魔導言語も魔導式も魔術の域も魔法の域も超えてる。何ならその魔導言語の内、8割はここに居る全員が知らねぇ言語を複数混合させて作られてるんだよ。」

「え、遥かに長命なエリクス先輩が居ても?」

「多分あれ、造語言語だと思うんだよね〜。それか、そもそもとして僕達機械精霊が誕生するよりもずっと昔の言語とか。」


「「「後者の方がやばいんだよ。」」」

「後者の方がやばいわ。」

「後者の方がやばいわよ。」

「後者の方がやばいです。」


「ったく、何なんだよあいつは……。」

「同じ部隊に所属してたヴィクトルが驚いている以上、その部隊だからこそって訳でもなさそうだし……。」


 ふと、妙な魔力変化を背後で感じて視線を向ける。そこに居るのは……眠っているはずのイリス。

 ただ起きたとか、そういうのではなくどうやら脱皮の反動である幼児化が終わったらしい。まだ本人にそのつもりと自覚がないからか竜人の特徴である角と尾は健在だ。


「今回は早かったね。」

「……まぁ、長く倒れられても困るからこの方が良い。」

「……この会議って、割と頻繁にされてるんですか?」

「今みたいに何かしらの理由でイリスが寝落ちして、かつ皆が居る時に限るけどね。」


 ……。


「……ちょっと怖い事言って良いですか?」

「い、良いけど……何だい?」

「それだけ高頻度にやってて、あのシュタール主任が気付いてない可能性ってどれだけあるんですかね? それこそ……この部屋に監視カメラとか。」

「「「「「……。」」」」」

「……考えた事、なかったんですね。俺、ちょっと思ってたんですよ。シュタール主任って、そういえばめちゃくちゃ良いタイミングでばっかり顔出すなぁ〜って。…………本当にこれ、漏洩してないんですか?」

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