第28話
「……ノア。」
「……はい。多分、良くないの引きました。」
行きと同じようにヴィルヘルムがイリスを抱え、歩く廊下。……ただ、あまりイリスの様子が宜しくない。
先の悪夢で何かを思い起こさせてしまい、それだけに飽き足らずその幼くなってしまった体が精神に悪い作用をしてしまったんだろう。格納庫を出て直ぐは落ち着いていたのに、今のイリスはヴィルヘルムの服を掴んで、顔を埋めて、身を縮こませ、縋りついて余裕がない。
凍えたように小さく震えて呼吸も何処か荒れている。……その色白な頬すらも、赤く染めて。
「発熱です。それも、今からじわじわ上がるタイプですね。」
「ったく、世話の焼ける……。ノア、ヴィルヘルム。先行ってるからそのままのペースで来い。」
「はい。」
「分かった。……イリス、大丈夫だよ。……大丈夫。君はそこで休んでて。」
比較的イリスの自由を全面的に尊重していたヴィルヘルムにしては珍しく、その身を変わらず安定したまま抱き上げつつ、その頭に手を添えてより自身に身を預けさせる。
イリスに至っては……もう、抵抗する元気もないんだろう。されるがまま身を預け、ヴィルヘルムの腕の陰に隠れるイリスの瞳はもう殆ど開いていない。ヴィルヘルムの服を掴んでいた手もいつの間にか懐に落ちて、時々痙攣しているように見えるのでもう既にかなりの高熱なんだろう。
……ちゃんと、せめて壊れる前に頼っていただけるようにならないと。
「ヴィクトル先輩!」
「もう話してある、こっちだ。」
「ヴィルヘルム。」
「頼むよ。」
リビングへ先に着いて根回しをしてくれていたらしいヴィクトルから情報共有を受けたイルメリナが、ヴィルヘルムの腕の中に居るイリスに手を伸ばす。
ただ、決してそのままイルメリナにイリスを明け渡す事が目的ではないらしい。身長差もあり、少ししゃがみこんだヴィルヘルムの腕の中で今にも力尽きそうなのに、まだ意識のあるイリスの頬にイルメリナの手が触れ、そのまま目を合わさせる。
「ぅ……。」
「イリス、見て。……目を合わせて。」
体は動かせずとも視線は動かせるイリスがイルメリナと目を合わせ、直ぐにぼんやりとして極端に全身から体が抜ける。互いに瞬きすらしない数分間を経て、ふっ、と電源でも落とされたかのようにイリスの意識が沈む。
え……。
「ヴィルヘルム。」
「分かってる。」
「ヴィルヘルム、こっちに。」
「うん。」
「い、今のは……。」
「私の能力。私、精神系に作用するまぁ……魔眼、に近いのかな。瞳に関してはそれなの。目を合わせた存在の精神に直接命令を下す事が出来てね、主な用途は洗脳が殆どなんだけど……。今回みたいに人を救うのにも使えるの。」
「だからシュタール主任は精神系なら……と?」
「本当によく見てる。うん、そう。……イリスはたまにああやってどうしようもなく精神が危うくなる事がある。本人はそもそも自覚すらないんみたいなんだけど……それも、これから何とかしていかなくちゃ。ノア君も手伝ってくれる?」
「それがイリス先輩の為になるのであれば、何処までも。」
「頼りにしてる。……これからも宜しくね、ノア君。」
「はいっ、こちらこそ宜しくお願いします!」




