第26話
「何か……あれですね。生物兵器ってお話にしては……敵じゃないと分かったらめちゃくちゃ甘えてくるタイプなんですね。」
「まぁな。」
「ヴィクトル、イリスはリュウセイ種に任せたから今度は」
「俺の作業場は俺が案内するからお前はここで寝てろ。知ってんだからな、昨晩イリス用の魔法補助薬の調合の為だけに徹夜して寝てねぇの。」
「え。」
「……全く。そういえば、ノアが来るまでは君が一番鋭かったね。分かった分かった、俺達はここで寝てるから戻る時に声掛けてくれ。」
「ちゃんと寝ろよ。」
「寝るってば……。」
「……ったく。ほら、ノア。行くぞ。」
「は、はい。」
大丈夫……かな。
相変わらずイリスが絡むと色々大事な物が吹っ飛ぶらしいヴィルヘルムは相変わらずらしい。幸いにもちゃんと休む気はあるようで、イリスが身を委ねている個体とは別のリュウセイ種の元へ歩み寄ってその身に身を預け、何だかんだ限界だったのか、直ぐにその意識は落ちた。
ここ、意外と皆さんのお昼寝スポットだったりして。
「ヴィル先輩もお休みされたみたいですし……お邪魔になってしまう前に」
「――ノア、お前の見解を聞きたい。……お前から見て、イリスはどう映る。」
「……今回に限定してお話ですか? それとも、全般ですか。」
「両方気になるが……まぁ、今は前者で良い。どう思う。」
「……怯え……。いや、恐怖ですかね。何かを恐れて体が強ばってます。」
「やっぱりか……。実はな、ノア。俺もヴィルヘルムも最初からお前に意見を聞く為に連れてきたんだ。」
「え……。」
「そもそもな、あのヴィルヘルムがイリスに関連する事で誰かを……。特に、イリスから見て異性を傍に寄せる事は良しとしない。まぁ、その理由は察してんだろ。」
あ〜……。
「まぁ、はい。」
「そんなこいつが、ちょっと幻楼街に行って帰ってきたら随分とお前を信用してやがる。イルメリナの時もそうだったけどよ、お前ら暗務局の奴らは何かと溶け込む事が上手い上に懐に入り込むのが上手い。……その点、お前のその突出した状況把握能力に関しては俺も一目を置いてる。」
「あ、ありがとう……ございます?」
「……何で疑問形なんだよ。」
「す、すみません。その、何というか……ちょっと、意外で。」
「意外?」
「はい。……ヴィクトル先輩って、何かから護ってるような……。むしろ、あんまり俺に何かを感づかせたくないような印象があったので。」
ヴィクトルという男は、何かと誰にでも当たり障りない対応をする中で情報を得る為ならばあまり我が身がどうなろうと気にも留めていない印象が強かった。その筆頭が、先の敢えてイリスやヴィルヘルムの攻撃を受けたあれ。
一応はノアに学ばせる為に受けたという話ではあったが……それにしては、お互いにそれが演技だと思えない程の火力ではあった。
その他にも気になる事として、ヴィクトルはあまりアルドリックを信用していない。アルドリックが現れるまでは普通に他の特務官達と会話をするのに、アルドリックがその場に現れるや否や極端に口数が減ったり。何処か、硬くなる所がある。
俺にはあれが……何か、シュタール主任を警戒してるように見えるけど。
「……本当にお前はよく見てやがんな。つーか、それが分かってんならもっとちゃんとアルドリックを警戒しろ。」
「……あの愉悦の事ですか?」
「……………………しっかり見てやがんじゃねぇか。」
「……少しだけ。」
「お前、俺とアルドリックのパーソナルデータは。」
「閲覧許可が降りませんでした。」
「…………俺は黑薙隊の元メンバー。アルドリックはそこの隊長だよ。」
「……え。え”。あ、あの黑薙隊ですか……!!?」
かつて帝国に存在した黑薙隊。そこに所属するメンバーの1人1人が皆、帝国の抱える宣戦をたった1人でひっくり返せる程にぶっ飛んだ実力者が多いと名高い伝説の部隊。……ただ、その伝説の華々しくも荘厳な栄光はとある事件で幕を閉じた。
そんな部隊の隊長と……メンバーが、まさかここに。
じゃあ、あのパスタ屋さんの店長さんも副隊長だって……。いや、そもそもあの時、確か黑薙隊ってヴィクトル先輩言ってたっけ。うわ、聞いてた気になってた……!!
「……その。」
「おう。」
「……………………皆様の献身に、心からの感謝と犠牲になられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。」
「…………昔の話だ。元々黑薙隊の奴らはどいつも死地に飛び込む事にまるで抵抗のない奴らばっかりだったからな。……どうせ、向こうでもどっかとどんぱちやってんだろ。」
帝国最強と謳われた伝説の部隊、黑薙隊はこのアウレリウス帝国から北東に数千㎞。大海を渡った更に先にあるヴァルージア帝国との戦争でほぼ壊滅した。具体的な被害者の名前、構成メンバーの名前、そして生き残ったメンバーの名前は未だに公表されていないが先の戦争で持ち出された未知の生物兵器とやらで数名を残して全滅した。
その情報は世界中へ瞬く間に触れ回り、途端にアウレリウス帝国に就くか。それともヴァルージア帝国に就くかの突如として発生した覇権争いにまで発展した。……実際、その頃にアルヴァリウスが種族転化という技術を作り出して特務局を設けたのがきっかけで不気味な程、急に収束した。
……まるで、何かが暗躍したように。
「……まぁ、そういう事だ。あいつには他にも色々理由があるけどよ……少なくとも、あいつは皇帝陛下とほぼ直通なんだよ。情報が。あいつに知られた事は必然的に皇帝陛下にも知られる事になる。あんまうちの皇帝様は俺らを権力争いに巻き込まないでくれてはいるが……お前の人を見る目は、権力争いでは重宝される。だから使い時を間違えんな。仮に何か気付いた事があっても、思った事があっても発言するタイミングと相手は選べ。」
「……はい。肝に銘じておきます。」




