第24話
「ここがかくのう……あ、あれ? また廊下?」
「次はこっち~。」
長い廊下を超え、ようやっと扉を開けてさぁ格納庫……と思えば、また廊下。右手にも扉があり、左に曲がってしばらくした右手側にも扉。そして、その少し先の行き止まりにも扉がある。
特に札が掛かっている訳でもないので何処が何処なのかは……頭で覚えなければならない。ノアも、確かにアルドリックから「黑棺」の見取り図を貰ったが……だからと言って、流石に全て完全に頭に入っている訳ではない。
一応、主要な施設っぽい所は頭に入れたけど……格納庫ってこんなに複雑な構造だったっけ。
「右手の扉の先がガレージ。……つっても、直ぐ使うのが決まってる乗り物を置いとく場所だけどな。」
「直ぐに使う事が決まってる……。なら、他はどうされてるんですか?」
「この下、地下に。ガレージの床の一部が昇降機になってるから、あれで上げてくるんだよ。」
「え、かっこいい……。秘密基地みたい。」
「だろ?」
「元々は野晒しだったらしいんだけど、ヴィクトルが全部整えたんだよ。……まぁ、俺が特務官になった頃には最初からヴィクトル式の車庫だったけど。」
「良いだろ?」
「助かってるよ。俺も愛車の整備とかし易いし……風化しにくいし。」
「んで、左手前の扉が倉庫。“黑棺”の1階前半分ほぼあれ。その倉庫の向こう側……ここの反対側に搬入口があって、あそこで荷下ろししたり詰め込んだりだな。」
「ほぼ資材とかヴィクトルが使うような工廠用の部品や重量物ばっかりだよ、保管されてるのは。その他の研究とかに使うのは全部倉庫内にあるエレベーターで3階に上げるんだ。」
「3階がそういうのの倉庫になってる。んで、俺のラボ……まぁ、作業場が一番奥にある扉の更に奥の扉の先だな。」
3階……? 2階じゃなくて?
「まだ扉があるんですか?」
「おう。……ま、俺の作業場よりもそこの扉の先に居る奴にお前を会わせるのが一番の目的だけどな。」
「ヴィクトル、扉を開けてもらっても?」
「ん。……ってイリスの奴、寝てんのか。」
「魔鋼種の話をし始めた頃からね。聞けば、アルドリックがイリスに通信機で起こされたのが朝4時だって話だし……何だかんだ負担掛かってたんじゃない?」
「ヴィルヘルム。」
「身体に引っ張られてると思うよ。」
「だよなぁ……。」
恐る恐る覗き込んだヴィルヘルムの腕の中で、確かにイリスが眠っている。自分の尾を抱き込んで枕とし、クッションとして。……その、何処か魘されているような難しい表情で。
当然、ノアにイリスの過去なんて知らない。アルドリックのように立場上なのか、それとも個人的に調べたのか、そんな人にアタックして全てを知ろうなんて厚かましい事は断じて行わないが……それでも、心配ぐらいは誰だってする。
……イリス先輩。さっきヴィクトル先輩が言ってましたよ。俺達……チームなんですって。ここは、貴方が警戒する程危険な場所じゃないですよ。
「ノア、前を見てご覧。」
「前……? ……………………え。」
「軍事利用を目的に配合された種――リュウセイ種だ。」
澄んだ凍て付くような寒空のように美しい蒼色の瞳に、身を動かす度にまるでキラキラと粉雪でも巻くような美しい毛並みの白銀を持つ獣。ただ、その大きさは一般的に街でよく見る乗用車やトラックなんて物では済まない。
先程までの廊下を比べて、2階層分の高さを誇るここでなければならないと言わんばかりに大きなその体躯は……乗り物というよりも乗り物を収める車庫並みの高さと横幅を誇っている。
体長もかなりの物で、こちらは長距離移動用のトラックを2台並べたぐらいの長さだろうか。そんな獣型の巨大生物が……複数匹、そこに居る。
どれもここで寛いでいたようで、伏せているような体勢で既にその大きさだ。立ち上がった時の大きさは……正直、天井の高さが本当に足りるのか不安になってくる。
ここはそんな彼らの為の場所らしく、あちこちに彼ら用のクッションベッドだったりも確認出来る。少し奥には隔壁のような、彼らが通れそうな巨大なシャッター状の物も確認出来る。恐らく、その近くにある人間用の扉の先が……ヴィクトルの作業場だろう。
「で、でっかぁ……!!?」
「リュウセイ種は元々、戦車や装甲車に代わる地を駆ける生物兵器として改良されたんだ。……まぁ、開発当初のリュウセイ種は猫と犬の遺伝子を掛け合わせ、そこにフェンリルの因子を掛け合わせる事で狩猟能力と集団での戦闘能力。そして従順性を組み込んで作られた完全な軍用生物だったんだけど……それをイリスがたった1つのレポートで悪路を縦横無尽に軽々と走破出来る輸送と防衛、護衛に特化した種族として置き換えた。」
「置き換えた……?」
「生物ってのは当然、体が大きいとその身を維持する為のエネルギーも膨大になる。……つまり、リュウセイ種ってのはその優秀さ以上に燃費が悪かったんだよ。」
「昔の戦場には必ず投入され、その8割が死ぬ。……その補填が用意出来る国は限られていたし、用意出来る国も維持に苦しんでてね。いっその事、絶滅させようかって話が出た時にイリスが補給路の安定化に活用する案を出したんだ。」
「……そもそも、物資が足りなくて生物兵器を投入するしかなかったから。」
「そ。」
「結果、リュウセイ種はこうやって拠点で飼って番犬代わりにしたり、車じゃあ馬力が足りなくてぴくりともしねぇ荷台を余裕の様子で運搬する輓獣になった。途端、維持費や飼育費とかの運用コストがこれまでのは何だったんだってぐらい桁外れに下がったんだ。」
「イリスって動物に好かれ易いんだけど、イリス自身も動物好きだからね。多分、耐えられなかったんだと思うよ。……そういう、新手の殺処分みたいな扱いが。」
「まぁ……戦場に白銀のでっかい塊がごろごろしてるのは異質極まりなかったからな。」




