第22話
「で? 流石に格納庫は高低差激しい上に、今のこいつには危ねぇもんばっかだろ。誰が抱えんだ?」
「……自分で歩いちゃ、駄目?」
「却下。大体お前、自分の尻尾の重心が自分の腰より高い位置にあんの嫌いだろ。」
「……三半規管、バグるから。」
「なら答えは出てんだろ……。階段下ってる時、絶対重心ズレんだから諦めろ。」
「……むぅ。」
「イリス、君さえ良ければ俺の所においで? 少なくとも世界の見え方は変わらないと思うよ。」
「……ん、そうする。ヴィク、筋肉質過ぎて嫌だから。」
「……随分悪態吐いてくんじゃねぇか、何だ。生理か?」
「シャー!」
「ふん、そんな縮んだ状態で威嚇されてもなぁ。まるで怖くねぇ。」
「……ヴィクトル。流石にデリカシーがないんじゃないかな。」
「こいつにはこれぐらいが良いんだよ。……それに」
ヴィクトルが言い終わるより、イリスの方が速かった。一度予備動作のように尾先が跳ねた直後、ゴウン、と空気を切る所ではない重低音を伴って幼児化していても大人の時のままの太さと長さをした尾が大きく弧を描く。
それを大人しく喰らってやるヴィクトルでもないようで、いつの間にか肌を覆っていた鱗とは少し違う……鋼のような銀色に包まれた左腕がそれをまともに受ける。……どうやら無傷らしい。
「……やっぱ弱体化してやがんな。普段のお前の攻撃より全然軽い。」
「はぁ……。だからと言ってやり方や言い方って物が」
「こういうのは手っ取り早く怒らせるに限るんだよ。大体、普通に言ってノってくる程察しが良い奴でもないだろ。」
「それは……。」
「ほら、イリス。今ので分かったろ。俺を吹っ飛ばせねぇ時点で今のお前は戦闘に向いてない。ぜっったいに戦闘すんな。」
「……………………はい。」
「後、これは質問だけどよ。」
「……?」
「お前、何か急に短気になってねぇか? 普段ならあれでまだ怒らねぇだろ。こっちはもうちょっと考えてたってのに……精神、若干肉体年齢に引っ張られてんじゃねぇのか?」
「……………………知んない。」
「知んないって、お前な……。」
「……イリス。こればっかりは大切な事だと思うよ。教えてもらえないかな。」
どうやらヴィルヘルムでも駄目らしい。ヴィルヘルムに抱え上げられたまま、本当の子供のようにヴィルヘルムの肩口に額を埋めてそのままそっぽを向いてしまうイリス。
何ならそれをヴィクトルが追い駆けるように顔の前で手を振れば、今度は懐に向き直って抱えた自分の尻尾に顔を埋めて行動で嫌がる始末。
それ、答えてるような物なんですけどね……。
「ったく……。」
「それはそうと、ヴィクトル。」
「ん?」
「俺も1発だけ良いかな。」
「……はぁ。揃いも揃って物好き野郎が。ほら、好きにしろ。」
「ノア。」
「はい?」
「1m以上後ろへ。」
「は、はい!」
「おま、それは」
「1発、だろ?」
ノアが余裕を持って2m距離を取って……直後、ヴィルヘルムが動く。イリスの抱え方に関しても、先程までのやんわりとした物からしっかりとした物へと変えて、どうやら察したらしいイリス自身も自ら引っ付いてその懐に収まっている。
それを確認したヴィルヘルムが憎い程に長く細いその足を鞭のように揮い、一切の加減なくヴィクトルの左腕を捉える。
ヴィクトルもヴィクトルで、流石にヴィルヘルムの1発を片腕で受け留める自信はないらしい。先程まで纏う程度だった左腕の装甲が明らかに肉質すらも硬化し、それを同じく硬化させた右腕で補助しながら肩幅以上に足を開いて……受ける。
それでもヴィルヘルムの蹴りの圧を殺しきれなかったようで、5m強ぐらいの距離を、床に跡を作る程にヴィクトルが後退させられる。……終わった頃には、ヴィルヘルムもイリスも何事もない様子で先程までの状態に戻っていて、最早何かありましたかと言わんばかりの表情だ。
……おぉ。
「あっぶねぇ……! おま、それは殴りじゃねぇだろ。」
「おや、おかしな事を言うね。俺は一度も殴るなんて言っていないけれど。」
「こいつ……。」
「……ん。」
「あぁごめんね、イリス。ノアもすまない。早速格納庫へ行こうか。」
「は、はい。」
「はぁ……。」




