第21話
「……え、っ、イリス……!!」
「……あっち行って、気味悪い。」
「貴方今、過去1とんでもなく可愛いわよ!!」
「…………こいつのメンタルを一撃で粉砕出来る何かが欲しい。」
「かなり難しいじゃろうな。」
「僕も諦めちゃった方が楽だと思うなぁ。」
……あれ。もしかしてシュタール主任、こうなるって分かってたから焦ってなかった……?
早朝、アルドリックから共有を受けた通りに特務官としての特権の一部である非人間族の体質を賜って戻ってきた……「黑棺」のリビング。相変わらず、ここは毎日何かがあるらしい。
いつものように何食わぬ涼しい顔で現れたアルドリックの腕の中に……ちっちゃなイリスが居る。一応思う所があるようで、機嫌が良いと控えめにゆらゆら揺れるはずの尾がだらりとし、たまに揺れるのであれは確実に出方を伺っている。
その反面、アルドリックのイリスの抱き上げ方はなかなかに安定しており、少なくともどうでも良い相手を抱えるようなやり方でもなければ。そこらへんの子供を抱え上げるような簡易的な様子でもない。
それが分かっているからなのか、イリスもちょっとだけアルドリックの服を掴んでいるようで、仮に何かの事情でアルドリックが走り出したとしてもバランスが崩れる事はないだろう。……そんな機会はご遠慮願いたいが。
絶対、碌でもない事態だし。
こうなるとやっぱり気になるのはイルメリナとヴィルヘルム。イルメリナは……まぁ、ある意味平常運転で興奮で紅潮したその頬を手で包み、9つの尾がゆらゆらと燃ゆる焔のように揺れている。もしかすると、この人の人生には不幸という概念が誕生すらしていないのかもしれない。
ヴィルヘルムはと言うと……こちらも、普段のような余裕はそんなにない。イルメリナ程ではないが頬が紅潮し、それを上手くその大きな掌で掴むように包んで多分緩んでいるであろう口元を隠している。……時々イリスに向ける横目で逆に分かり易いが。
「……降ろして。」
「さぁ、どうぞ。」
まるで何処かから借りてきた猫を新しい環境へ放すように降ろすなぁと思ったのも束の間、床に座り込むようにして降ろされたイリスは……動かない。
それどころか、アルドリックの腕の中に居た時は視線を合わせてくれていたのに、今は頑なに視線を持ち上げようとしない。
……もしかして。
そっと、なるべく刺激しないようにイリスから1、2m付近でしゃがめば……やっぱりそうだ。少し驚いたように、警戒したようにイリスが反応したのを見届けつつ……その場に正座する。
流石のイリスも、そんな次の動きが取りにくい体勢で止まられると思わなかったんだろう。きょとんとした顔で、何処か不思議そうな顔で……ようやっと視線がかち合う。
本当に分かり易い人ですよ。
「イリス先輩、今日のご予定はどうします? 外は……流石に駄目ですけど、“黑棺” 内ならタクシーになりますよ。あ、ちゃんと朝食食べてからですね。もしもっと高い所からの景色が良いなら俺からもヴィル先輩に頼んでみますよ。」
「そんな気を利かせなくてもイリスの為なら俺は拒まないよ。……ノア、隣に座っても?」
「正面譲るんでここ座ってください。」
「君、それほぼほぼ……。あぁもう、気が利く子で助かるよ。ありがとう。」
「どう致しまして。」
「イリス、朝食後は何処に行きたい?」
「……格納庫。リュウセイ種、そろそろメンテ終わってるから……ノアと引き合せる。」
「こんな時まで先輩なんて、本当にかっこいいねイリスは。」
「……別に。…………後、ヴィク。」
「ん?」
「ヴィクも……来て。あそこ、ヴィクの庭だから。」
「あー……あれの話もすんのか。分かった。行きゃあ良いんだろ。」
「ん。」
「では、話も纏まったようだし朝食にしようか。今日は……誰の当番だったかな。」
「はーい、私です! 今日の朝食はグラタンです!」
「……朝から重いんだけど。」
「朝だからこそちゃんと食べないといけないの!」
「さ、配膳始めよか。」




