第18話
「それはそうと……ヴォルカ特務官。先程君の尾に触れた時に思ったのだけれど」
アルドリックの言葉が続く事は……許されなかった。
一瞬だけ辛そうな顔をしたイリスの体がふっ、と重心を失って崩れていき、咄嗟の判断か偶然か。イリスの頭が着地するであろう場所を予測してアルドリックの尾が先回りし、イリスの頭を受け留める。
イリス先輩……!?
「い、イリス……!」
「イリス、イリス……!? ……っ、発熱と鱗の剥離が始まってる。」
「……やっぱりか。」
「アルドリック。」
「脱皮だよ、脱皮。……この様子だと体調不良を伴う脱皮かな。リヒター特務官、君は“黑棺”のセキュリティレベルを最大に引き上げるように。ローゼン特務官は魔力補助薬の調合を。ヴォルカ特務官は私が部屋まで運ぼう。……魔法薬は後に、部屋まで。」
「りょ、了解……!」
「あぁ……!!」
「っ、主任! 私に出来る事は……!?」
「生憎、これは精神性の物ではなく周期的な物。……それも、竜人特有の物だからね。起きてからの状態によってはお願いする事もあるとは思うけれど、現状では何とも言えない。」
「……俺は警備ドローンの整備でももう1回してくる。」
「あぁ、宜しく頼むよ。」
「……シュタール主任。」
「アルヴェルト特務官は確か、医療方面に明るかったね。ジルバータール特務官のように専攻分野を持たないタイプの。」
「はい、満遍なく学ばせていただいております。」
「では丁度良い機会だ、ローゼン特務官を追い駆けて手伝ってもらっても良いかな。案内はトウマ特務官に頼もう。」
「あい分かった、任された。……行こうか、ノア坊。」
「は、はいっ!」
皇帝陛下がそういう風にこの国をお造りになられたのか、それとも偶然か。この国にはあまり純正の非人間族が居ない。だからこその種族を立場で決めるなんて制度が成立しているのかもしれない。
ただ、その影響もあってかこの国ではあまり簡単に手が届く所に非人間族に関する資料がない。ノアも、それなりに常識を集めようとしたが失敗し、上手くいかず、それなりに苦労してきた身だ。
……。
「あの、シュタール主任。」
「何かな、アルヴェルト特務官。」
「っ……ご無礼を承知で申し上げます。このような緊急時に魔法薬という数多の前提知識を必要とする調合より……今、俺に欠片でも前提知識を有するイリス先輩の看病や竜人という種の体質に関する学びの機会を戴けないでしょうか。……魔法補助薬がどのような難易度なのか、どのような複雑性を有しているのかは分かりません。しかし、本来であれば回復に半日から数ヵ月を要すような重篤化も存在する魔力欠乏症に関する知識や日常的な魔力消費の回復傾向や回復速度については多少、学があります。」
「……やはり君は優秀だね、アルヴェルト特務官。宜しい、許可しよう。着いてきなさい。」
「はい!」
「すまないね、トウマ特務官。」
「いいや。……シュタール卿も悪いお人や、ノア坊が物申すん待っとったやろ。」
「え……?」
「特務官にしては多少、大人し過ぎる所があったからね。ちゃんと自我が見えて安心した。……では、見ての通り私が両手が塞がっている。先導をお願い出来るかな? 事前に渡してあった“黑棺”の見取り図は頭に入っているね?」
「はい。規定通り、暗記した上でご提供戴きました地図は焼き捨てました。」
「結構。宜しく頼むよ。」




