第16話
「それで……? そういえば、俺は何故君達がここに来たがったのか聞いてないのだけれど。」
「魔法補助薬。……私がしばらく飲み続ける。」
「あー……なる、ほど? え? それ、よっぽどだと思うんだが……な、何をする気なんだい?」
「……そろそろ、脱皮。」
「……すまない、イリス。それで理解出来る程俺に知識がなくてね。」
「竜人の脱皮、……魔力消費激しいから。場合によっては高熱とか、吐き気とか……色々。」
「セヴァルズ、倉庫の物も幾つか輸送してもらえるか? 魔晶石と竜の涙、世界樹の雫と樹液、後は……。」
「人魚の血液。」
「急ぎご用意致します。」
「じゃあ、とりあえず運べる分だけ俺の空間拡張魔術の中に入れようか。」
「…………ヴィル。」
「量が過剰だって言いたいんだろう? けど、こうやってぎりぎりになって作るよりも作れる時に沢山作っておいた方が効率が良い。それに、魔法薬は普通の薬や食材と違って劣化しない。馬鹿みたいに作っておいて困るのは置き場ぐらいだが……あの“黑棺”なら問題ない。それに、君レベルの魔力となれば必要になるのはイリスとイルメリナ、アルドリックだ。捨てるような事はないから損はしないと思うよ。」
「……ん。」
魔法薬……か。
そもそもの話、ノアはこれまで魔法薬という物に関わった事はない。それはある意味当然な話で、魔法薬の開発を行う為に必要な設備が法外に高い。その為、必然的に研究者と貴族に限られる。
魔法薬自体は何度か見た事がある物の、素材に関しても分からない物が多く。まだまだ学ばなければならない事は多くある。
これも……学ばないと。
それを、ヴィルヘルムが見ていたらしい。徐にノアが眺めていた魔法薬に関する本と魔導医学に関する本、そして魔導薬学に関する本を取って……セヴァルスの元へと持っていく。
見事なコンビネーションで、惚れ惚れする程の速度で処理されて茶封筒に纏められて戻ってくる。
「はい。魔法薬の素材になる魔物図鑑も足しておいたから。」
「……ありがとう、ございます。……ヴィル先輩って。」
「ぅん?」
「たらしですよね。」
「え。」
「めちゃくちゃ罪な男ですよね。」
「え……?」
「ヴィルヘルムお坊ちゃま。ご注文戴いた品は全て、お坊ちゃまに指定された座標に転送致しました。」
「あぁうん、ありがとう……。」
「あ、お金。」
「払った。……さぁ、帰ろうか。道中で何か立ち食いでもするかい?」
「……お金。」
「もう払った。」
「……ヴィル。」
「受け取らないからね。」
「むぅ……!」
「膨れてもだ~め。絶対に受け取らないから。」
「んんん~~~!!」
あれだけじゃれておいて付き合ってないなんて、詐欺だと思う。恋情だと意識すればポンコツな癖に、こういう時は普通にお兄さんなヴィルヘルムも。この前の任務でのかっこいい姿は何処に消えたんだと突っ込みたいぐらいにひたすらあざといイリス。これはもう、ノアの心臓を止めに来ている。
あの不毛なじゃれ合いはイリスがぽかぽかとヴィルヘルムの懐を殴る事態にまで発展しているというのに、そんなに力は入っていないのかヴィルヘルムはわざとらしく直立しつつも自分の腰に手を当て、顔をそっぽに向けている。
これには近くにいらっしゃるセヴァルスもなかなかにほんわかと和んでいるご様子。……これはもう、これも含んで微笑ましいと思っていらっしゃるんだろう。
「……失礼を承知でお伺いさせていただきます。セヴァルスさん、あのお2人って1周回って馬鹿ですよね?」
「ふふ。爺やはヴィルヘルムお坊ちゃまの成長がとても微笑ましく思います。」
「…………親馬鹿みたいな事を仰られるんですね。」
「執事馬鹿……ですかね?」
「言い得て妙ですね~……。」




