第15話
「ここが……ヴィル先輩のお婆様の?」
「うん、ローゼン・ローゼ。セヴァルズが店番をしているという事は……お婆様はお出掛け中かな。」
「はい。……恐らく、本日はお坊ちゃま方がいらっしゃるだろうから店を閉める訳にはいかない、と。」
「ありがたいね。後でお礼を言っといて。」
「畏まりました。」
店の外からも感じていたが、店内はもっと凄い。魔導書のような物から何かしらの儀式に使いそうな禍々しい物、魔法薬の素材に魔法薬その物すらも売っている。
帝国であればそれこそ、臓器を売らなければ買えないような物やそもそも販売するのに特殊な資格が必要な物もある中、ここではそれらが一般人でもそこそこに稼いでいるような人であれば割と簡単に変えるような金額で当たり前のように売っている。
まぁ……ここに来るのがそもそも大変だけど。
ちゃんとヴィルヘルムとイリスの後に着いていきつつ、店内を見て……ふと、床の違和感に気付いた。よくよく見れば、この床の赤はカーペットではなく……花弁。試しにそっと拾い上げれば造花ではなく、ちゃんと生花だ。
自分でも何でここで見上げてしまうのかと自分自身に聞いてしまいたいながら……ふと、見上げてしまった。
天井にびっしりと満ち満ちる薔薇の花畑。まるで天地がひっくり返っているようなその場所に、とんでもなく綺麗に並べられた薔薇が敷き詰められ、その茎の合い間から伸びてきている胚のような赤い実がこの店の照明になっているらしい。
「……。」
「魂の薔薇。俺達吸血鬼にとって魂こそが心臓であり、誇り。そういう意味からお婆様が開発したんだよ。」
「え、ヴィル先輩のお婆様が?」
「そ。一応、防衛的な店番だから……悪さすると茨が伸びてきて血を吸い上げられるからね。」
「た、対処がグロ過ぎ……!!」
「……。」
「……イリス。」
「……な、何?」
「今、また睡眠薬系の魔法薬の材料買おうとしたの、見えてたからね? 睡眠に関する事は全部イルメリナに相談するようにって、アルドリックも言ってなかったかな。」
「め、めんどくさい……。」
「……。」
「……ぅう。戻す。」
「良い子だ。賢いね、イリス。」
注意は普通に出来るんですね、あんた。
色々と先が思いやられながらも、とりあえず拾い上げた薔薇の花弁をそっと床に戻す。これだけしっかりしている店なら……大方、本当に物を生産する人物がこの店に滞在出来るかどうかでその日、店を閉めるタイミングを決めているんだろう。
それにしても、どうやってヴィルヘルムの祖母は今日ノア達が来る事を予測していたのだろうか。やっぱり、その手の能力とかがあるのだろうか。
折角来たし、特務官に就任した際に戴いた祝い金が多少ある。それで少し買い物するのもありか……なんて眺めていると、頭上からそっと本が視界に滑り込む。
「……空間拡張魔術?」
「君、苦手なだけで魔法は使えるだろう?」
「は、はい。……基礎的な物には限りますが。」
「基礎が出来るならそれも出来る。それと、魔法防殻の本に……暗殺系ならこれもか。はい、物体透過魔術。透明にはなれないが、壁抜けは出来るようになる。」
「……。」
「……? ノア?」
この人、1回気を許したらめちゃくちゃ甘くなるタイプか。
「……。」
「……?」
「……ヴィル先輩、少しお願い事が。」
「良いけど……どうした?」
「……お料理、教えていただけませんか。」
「あぁ、当番の。構わないよ、また時間のある時に声掛けてきなさい。」
「助かります……!!」




