第14話
「もう、ヴィル先輩! いつまで恥ずかしがってるんですか! 全部誤解だって分かったじゃないですか!」
「分かったからこそ動揺してるんだよ、俺は……! 何で分かんないかなぁ……!」
「勿論分かってるに決まってじゃないですか! それを差し引いてももっとヴィル先輩にはその羞恥が焦がれまくってほしいんです、その方が燃え上がるんで!」
「こいつ……っ。」
顔、笑ってますからね?
やっぱり、ヴィルヘルムは特務官らしくない程に常識的な人だ。ただ、それがイリスへの想いで焦がれて熱が入り易いだけで、悠界貴族の筆頭である事も多少影響しているのかそれを隠すのがかなり上手い。
後はその変に初心な所さえどうにかなってくれれば……ノアとしては、言う事なんて何1つない。いや、むしろそのまま残してイリスにやられっぱなしなのも良いかもしれない。
どっちでも良いけど、このまま生殺しは俺だって嫌なんですよ!
「……。」
「ほらぁ……! イリス先輩、待ちきれなくて来ちゃったじゃないですか!」
「えっ。い、イリス、これは」
「……ヴィル、おでこ出して。」
「……はい。」
おでこ出して……?
ひょこっ、と店の扉から顔を出したイリスが徐に額を出すようヴィルヘルムに要求。ヴィルヘルムも、然程珍しい事ではないのか多少身長差があるのもあり、イリスの手が届くようにその場に膝を突くヴィルヘルム。
そんなヴィルヘルムの額をイリスが目で射止めて……――中指で弾いた。
え。
「ノア虐めた……罰。」
「……ふふ。むしろ御褒美だよ、イリス。」
「……じゃあ、ほっぺ抓る?」
「もっと幸せかも。」
「……??」
「あの、イリス先輩。多分何やっても後手に回るんで駄目です。」
「じゃあ……何なら?」
……え、俺に聞くんですか?
一番の問題は、そもそもこの状況を作り上げたヴィルヘルム。本当にイリスに怒られても、その怒っている姿すらも彼にとっては愛いらしく、やんわりと微笑みつつも困っているようでいて、満足そうにも見える。
この人、イリス先輩絡むとめちゃくちゃポンコツになるタイプだ……!! もう、どっちもたらし過ぎる……!!
「っ、こんな人目に付くとこで堂々と恥ずかしい事をするんじゃありませんっ!! ほら、中で店主さんっぽい人もめちゃくちゃ優しく微笑ましそうにしてるじゃないですか!! あんたらちょっとはまともな恥じらいってのをその頭に搭載してください!!?」
「……? ノア、お母さんみたい。」
「こんなすこぶる飛び抜けて優秀な方々を産み落とした覚えはありません!!」
「……ふふ。ノア、君そもそも男だろう。前提がずれてるよ。」
「あんたは論点がずれてるんです!!」
「それに、あれはうちの爺やだから全部知ってるよ。」
「え。」
「爺や……?」
「俺のお爺様の執事さん。俺が子供の頃は色々と厳しくしごかれたんだよ。」
「……普通に、良い人……だけど。さっきも、一緒に流星粉……探してくれたし。」
「まぁ、俺の爺やだからね。……さて。ノアの言う通り、そろそろ行こうか。イリス、目的の物は揃った?」
「全然。手伝って。」
「喜んで。」
…………絶対、シュタール主任も分かってて送り出したなこれ。




