第10話
「……!」
「ここが霧の魅せる街、幻楼街。俺の生まれ故郷だ。」
雲外鏡を超えて数分もしない内に強い光……は、来なかった。蒼く仄かに輝く、アウレリウス帝国のようなスチームパンク調の機械は全くない、アンティークとヴィンテージの両方が鎮座し、共に手を取り合って生きるような世界……幻楼街。
そこを行き交う人々は決して人ではなく、誰もが非人間族。顔と足以外が認識出来ない程しっかり黒いマントのようなローブに身を包んでいる者も居れば、俺達のように分かり易いように風体を晒している者も多く居る。
街並みは……ほぼ全て、店。あちこちに色んな看板がぶら下がり、一気に近未来から中世に戻ったような趣ある世界は現実の店よりもずっと、此方に手を差し出しているような沼っぽさがある。
鏡の向こうに、こんな世界が……。
「ヴィル、あそこの肉串食べたい。」
「良いよ。アルヴェルト君、君は?」
「あ、い、戴きます!」
「……ノア。貴族の種類と領地について、どれぐらい。」
「実は、あんまり……。」
「帝国の貴族は大きく分けて……2つ。1つ、他国でも一般的な実質的な領地を持つ貴族。この前の任務でぶつかったような、帝都西部とかに位置するような本当に何のひねりもない貴族で、大半が魔法に対してあまり突出した才を持たない。どちらかと言えば、非人間族だとしても人間寄りの者や武に関する功績を残した者を差す現界貴族と現界領地。それと、今見てるような亜空間に領地を持つような非人間族寄りの者や魔法に関する功績を残した者を差す悠界貴族と悠界領地を持つ貴族が居る。……現界貴族の代表格はリックだけど、悠界貴族の代表格は……ヴィル。」
「え、じゃあ……ローゼン卿って悠界貴族の……?」
「筆頭。」
「……………………待って、情報量多過ぎて諸々やば過ぎる。」
「……?」
「何で分かってくんないんですか、あんた……!」
「ただいま。買ってきたよ、肉串。今回は竜獣種の肉串だって。」
「……! ありがと、ヴィル。」
「どう致しまして。ほら、アルヴェルト君も。」
「あ、ありがとうございます……。」
……イリス先輩。流石に派閥とはいえ、貴族筆頭様を顎で使うのはどうかと思いますよ……?
先の雲外鏡でもそうだったが、恐らくヴィルヘルムは貴族のご令息だろう。そんな人物をこうも顎に使うなんて……流石に特務官であったとしても怒られそうな物だが、ヴィルヘルムのご家族はこの状況を何処まで把握されているのだろうか。
ただ、そのヴィルヘルムに関しても先程からイリスが反応する度に。目が合う度に、少しノアへの警戒が緩んで目が満足そうに細くなる所がある。……もしかすると、そういう事なのかもしれない。
イリス先輩は……自覚、ないだろうなぁ。
ノアからしてみれば、ここまでされて全く自覚もなければ察しもしていないイリスの方が不思議でならない。この規模まで来ると……やはり、性格的な物ではない気がする。もっと、根本的な……何かが。
「……あ、美味しい。」
「竜獣種と言って、竜人の最下位互換に位置する家畜だよ。彼らは人語を介せず、そして文明も有さない。だから、遺伝子学や生物学的には竜人に分類されるけど、知的生命体には分類されていないんだ。」
「……そのお肉、こんなに美味しいんですね。」
「現界で買おうとしたら領地が1つ買えるね、伯爵領ぐらいの。」
「……………………。」
「はは、そう心配しなくてもこっちでは子供のお小遣いで買えるような金額だよ。」
「イデア銅貨、2枚。」
「……インフレしてる。」
金持ち多そうだなぁ……悠界。あれ。
「じゃあ、もしかしてわざわざこっちで買い物するのって……。」
「うん。こっちの方が物価が果てしなく安いからだね。」
「……非人間族は人間よりもずっと狩りが上手いし、魔法の扱いに長けてるから人間が苦労する事は大体欠伸でもするように出来る。だから、価値が逆転する。」
「逆転……? じゃあ、こっちは何が高いんですか?」
「医療品とかだね。それこそ、内臓売るレベルだよ。」
「兵器も。非人間族、装備は作るけど兵器作るの……珍しいから。」
「…………規模、おかし過ぎません? 最早生存圏交換しましょうレベルですよ、それ……。」




