第3話
「うわぁっ……! どうしちゃったのイリス、自分の尻尾抱っこしてヴィクトルの懐に収まってるなんて……!!」
「……だって、ヴィクが降ろさないから。」
「降ろして倒れられたら困るんだよ。」
「……リビング着いたし。」
「おう、目的地だ。……ほら、立てるか?」
「私を何だと思ってんだ、お前は……。」
「ねぇ、ねぇイリス!」
「……?」
「降りる前に1個、写真撮らせて!」
流石に嫌だったらしい。一度はイリスを降ろそうとしたヴィクトルが再度抱え上げ、リビングへ来るなり走ってきたクリーム色の毛並みと9つの尾が特徴的で、確か他国の……和服、だったか。それなりにゆったりとした余裕のある明るく白い和服を着た女性が……その尾から一眼レフを取り出す。
大層興奮した様子の彼女がイリスに写真を要求するなり、頬を駆けるように鱗模様の筋が走ってイリスの身を包む。血が滲んでいるような、ワインよりも濃い紅色のその瞳も猫のような縦長となり、白かった強膜が黒く染まり、猫や蛇のように息を震わせながら吐き出すような威嚇音が響く。
鼻頭にも深い皺が寄る程に威嚇するが……それでビビるこの女性ではないらしい。むしろ、とても幸せに満ちている。
……え。
「本当っ可愛い……!!」
「……ヴィク。やだこいつ。」
「別に割といつも通りだろ。ほら、降ろすぞ。」
「……ヴィルのとこ行ってくる。」
「リビングから出なきゃ好きにしろ。……それはそうと、イルメリナ。こいつが例の新人な。」
「あ、やっぱりそうなの? あのイリスが警戒しないからそうかなぁとは思ってたけど。」
「は、初めまして! この度特務官に着任致しました、ノア・アルヴェルトと申します!」
「……あら、初々しい。」
「こう見えてあのイリスが惚れ惚れするレベルの実力者だとよ。」
「え、何その話!? 凄く気になるんだけど!」
「はぁ……。そんな事より先に挨拶してやれよ。」
「あっ、そっか。ごめんね〜? 私はイルメリナ・ジルバータール。可愛い物が好きで、よく集めたり愛でたりしたくなっちゃうのよね〜。……特に、イリスとか。」
「その内殺されるんじゃねぇか。」
「ふふん、全部避けちゃうもんっ!」
「……きっつ。」
「ちょっとー!?」
じる、ばーたーる。……ジルバータールって、まさかあの……?
元々イリスのような本物に関する情報はよく集めていたノアだが、だからと言って特務官全員のパーソナルデータに目を通している訳ではない。何せ彼ら特務官の存在も、能力も、功績も、どれか1つだけでも国家を揺るがす事や世界を揺るがす事だって出来てしまう存在だからに他ならない。
その点、ヴィクトルとイリス、アルドリックはその特務局の代表的な存在に近い。彼らの事はあらゆる所で有名になっていて、断片的でも彼らについて知らない人の方が少ない。
今回初めてお会いした、毛並みと同じくクリーム色の髪にこの国の皇帝陛下の髪を思い出させるような全てを吸いこまんばかりに美しい黄金色の瞳のこの人は
「……もしかして、元暗務局の方……ですか?」
「ぅん? うん、元帝都暗務局のイルメリナ・ジルバータール。特務官に任命されてからこの体質になったから……当時は人間だったけどね。でも……何で分かったの? 初対面だよね?」
「こいつも元暗務局の人間なんだよ。」
「あ~……成程。そういう事。」
「……ご、ご不快でしたか?」
「あ、ううん! 全然! むしろ、あの暗務局からイリスが引き抜いてくるなんてね……。あの子、ずば抜けて異端審問教会が嫌いだからびっくりしちゃった。」
「え、そうなんですか?」
「うん。私も詳しい事情は知らないけど、イリスの異端審問教会嫌いはかなりの物だよ?」
「主教のセヴェリウスなんて、視界に入っただけで舌打ちされてるからな。」
「…………あの人、イリス先輩に何したんだ……?」




