第2話
「……ヴィク……?」
「……ちょっとは目ぇ覚めてそうだな。」
「……降ろして。」
「却下。ほら、目ぇ覚めたんなら自分の尻尾抱えてろ。運びにくいんだよ、それ。」
「……降ろせば良い。」
「降ろして倒れられても困るし、尾が垂れて床撫でられても迷惑なんだよ。良いから尻尾抱えとけ。」
「……横暴。」
「運んでもらってる奴が何を偉そうに。」
「なら……降ろして。」
「うるせぇ、そこで大人しくしてろ。」
「……理不尽。」
また……起こしに来たんだ。
口では言いたい放題に文句を撒き散らす癖に、戦場で敵を撃たずにイリスを撃つような暴君っぷりの割にはかなりの頻度で起こしに来て、イリスに起きる事を強制せずに運ぶという選択肢が出てくる辺り、底抜けのお人好しなヴィクトル。
尻尾に関しても、垂れたとしても床に触れない長さである事を理解しているはずなのに自分の肩へ掛ける辺り、本当に甘い。その図体と顔付きからは考えられない行動だ。
……ほんと、変な奴。
言われた通り、懐にぼとり、と多少乱雑に落とされた自分の尻尾を抱き込むイリス。相変わらず太くて、良い感じに固くて、よく抱き枕と化しているこの尾だが……最近は少し、調子が悪い。
鱗が剥がれ易くなったり、時には見ていて動きが固い時や謎にひんやりしている時すらもある。
……。
「……脱皮。」
「は? 今?」
「違う。……そろそろかなって。」
「手伝わねぇからな。」
「頼んでない。」
「ほんっと生意気だな……落とすぞ。」
「落として。」
「黙れ、大人しくしてろ。」
「何だよこいつ…………!」
「あ、あの、イリス先輩。」
「……あー、ノア。……おはよ。」
「あ、はい! おはようございます! ……それはそうと、体調……大丈夫ですか?」
「……? うん。一応。」
「ふざけた事言ってるとこのままイルメリナの部屋に放り投げるぞ。」
「ごめん、嘘。ちょっとふらふらしてて眠い。後、ちょっと手痙攣してる。」
「え!?」
「やっぱそうじゃねぇか……。そのまま良い子にしてろ。」
昔から、少しでも不調があれば手が震える癖がある。その強弱でどれだけ酷いのかを自分でも測っていたイリスとしては、――まだ大丈夫な範囲だ。
これぐらいの震えならまだ武器も揮えるだろうし、照準が乱れる事もまずありえない。だからそう心配しなくても良いのに、いつだって当人以上に周りが騒ぐ所為で多少の動き辛さを感じる事が多々ある。
……大丈夫だって、言ってるのに。
「……。」
「今度は何だ、急に尻尾抱き込んで大人しくなりやがって……。」
「……懐にある方が落ち着くな、って。」
「……。」
「……。」
「絶対余計な事考えてるだろ、辞めろ。」
「じゃあ言え。」
「何を。」
「お前、さっきから自分の尻尾の鱗触ってんだろ。」
「……気持ち悪い。」
「こいつ……。」
「ま、まぁまぁ。イリス先輩、何かご自身の尾の鱗の件で気になる事でもあったんですか?」
「……最近尾の不調多いから、そろそろ脱皮かなって。脱皮……始まったらしばらく魔法使えなくなるから。」
「「え。」」
「使えないって……どれぐらいの規模で。」
「感知も出来ない。……だから、怖いから部屋籠る。巣籠りの準備するから。」
「巣籠りって、お前な……。」
「あの、イリス先輩! 俺に何か出来る事……ありますか?」
「…………じゃあ、調合するから買い出し付き合って。」
「……! はいっ!」
「……車ぐらい出してやらなくもねぇけど?」
「やだ、ヴィルに頼む。」
「お前絶対それ何か余計な物とか買ってくる奴だろ。」
「んーん、ヴィルのお祖母ちゃんの店。」
「ヴィルヘルムの……。あぁ、そういう事か。」
「……?」
ノアにも、あの街の事教えないと。……きっと、必要になるから。




