第25話
「あ、あの。それで……大事な話って何なんでしょうか。多分、アイゼンベルク特務官殿も関係のある事……なんですよね?」
「ヴィクトルで良い。もう他人じゃなくなるからな。」
「他人じゃなくなる……?」
「ほら、イリス。お前のバディだ、お前から渡せ。」
「ん。」
ずっと気になっていた、ヴィクトルの革製鞄。いつもならやたらとジュラルミンケースを持ち歩いたり、その中から銃が出て来たり。黒くて大きなボストンバックの中からRPGが出てくるような、武器の運び屋みたいな所があるヴィクトルの鞄から出てきたのは……何の変哲もない茶封筒。
しかし、その表面にはそれなりに見慣れた帝国魔導特務局の紋章である、歯車の輪を竜が潜り抜けている途中のような紋様が刻まれている。これを帝国の国旗ではなく特務局の紋章で持ってくる辺り、皇帝はこれをどうしても特務官に与える特権の一部として扱いたいんだろう。
本当、変な所で徹底してる。
「……あげる。」
「あ、ありがとうございます……。……拝見しても?」
「ん。」
「びっくりし過ぎて腰抜かすなよ。」
「え。……そ、そんなやばい物が入ってるんですか、この封筒。」
やばいと言えばやばいけど、別にやばくないと言えばやばくない。
ノアがどんな反応をするのか、イリスには既に分かっている。そして、傍に居るヴィクトルも恐らくは何となく察しているのだろう。元より何かと察しの良い男だから。
恐れか、緊張か。それともその両方か、恐る恐る開封し、その中に指を掛けたは良いが待てど暮らせど中身を出す気配はない。
……おい。
「……早く。」
「……一応言っとくが、お前がその中身を確認するまで俺とイリスは帰れねぇからな。」
「そ、そんなに重大な内容なんですか!? うぅう、最期にお2人とお食事を共にさせていただける機会を得られてめちゃくちゃ幸せでした……!!」
「……イリス。こいつ、本当に大丈夫か?」
「……まぁ、割と平常運転。」
「はぁ……。また味の濃い奴を見つけてきたもんだ。」
「凄いよ。現場で解剖し始めて、ちゃんと状況も整理出来て、違和感に敏感。暗殺者なのに、正面からの攻撃に対処も出来る。」
「ほー? ……ま、そもそもお前が書類を用意させる時点で普通じゃないなんだろうけどよ。」
「……。ッッッ………………!!?」
分かってはいたが、やはりそうなるらしい。ようやっと覚悟を決めて茶封筒の中からそっと引き抜かれたその書類。それを見て、見ながら中の紙を完全に取り出して茶封筒を背にしてその文面に再度目を向けて……言葉が死んでいる。
何ならそのままテンションも壊れたようで、両手で書類を持って目の前に持ってきてはまた驚いて。急に眼を閉じたまま顔を逸らしたかと思えば、そっと。少しずつ目を開けて横目で書類を見てはまた顔をしっかりと向け、再度中身を認識して両手どころか全身が震えて顔が蒼白になっている。
……ふふ、面白い。
「えっと……え。え? お、俺、俺……今から死ぬんですか?」
「んふふ、楽しい。」
「……まぁ、今回に関しては俺も同意見。面白いわ、お前。」
「俺は全くそれどころじゃないんですが!!? え、ちょ、はぁ!!? ま、待って、待って待ってマジで待ってください、え!!?」
「ヴィク。ねぇヴィク、あれも出して。」
「おう。……ほれ。ノア、受け取れ。」
「これは……え、指輪?」
「ちげぇ。良いから開けろ。」
「失礼します。……………………!!?」
「……ふっ、ふふ。ふふふふ……!」
「おま、それは狡いだろ……!」
やっぱりノアは面白い。あまりにも良いリアクションをするノアにイリスも、そしてヴィクトルですらも笑みを隠しきれず、笑いが零れてしまっている。
ヴィクトルが追加でノアに渡した物は、確かに外観だけで言えば指輪でも入っていそうな黒くて小さな箱。しかし、その中身に入っているのは指輪なんてくだらない物ではない。
「……特務局の、徽章。これ……弁護士とかが着ける弁護士バッチと同じで、特務官だけが着ける事を許されたバッチ、ですよね?」
「おう。」
「じゃあノア、改めて。――特務官への就任、おめでとう。今この瞬間からお前は帝国魔導特務局の新特務官、ノア・アルヴェルト特務官になった。……これからも、宜しく。」
「既に“黑棺”に部屋は用意してある。早めに引っ越し準備済ませて越してこいよ。必要なら手伝ってやるから。」
「……。」
「…………え、嫌だった?」
「……イリス。こいつの性格的に嬉し泣きだと思うぞ。」
「え、嬉しいのに泣く? 謎過ぎる。」
「俺はお前の異様な感情の欠損具合の方が不思議でならねぇよ。」




