第23話
≪イリス、イリス!! 聴こえてるか、イリス!!?≫
「……聴こえてる。」
≪……! よ、良かったぁ……!! って、あれ? 何か機嫌悪い?≫
「……犯人がヘタレだった。」
≪あぁ~……。なる、ほど。≫
「人に銃口向けてきたり、ハイス種卵から育てる割には人間相手にびびるヘタレ野郎。問いかけにもまともに答えられなくて会話すら難しいし、あいつどうせ取り締まりでもまるで人語を介せねぇんじゃないかって気がしてる。今ですらも突入してきた機動隊が手錠掛けようとしたら直ぐに差し出しやがるし、アルヴェルトが回収して確認した拳銃の中に入ってた弾、ただの薬莢で中身が入ってないと来たからこれまでの人生で一度も銃を撃った事もない奴だ。……んだよ、拳銃に触れただけで弾が自動生成されると思ってんのか、あいつは。私でも出来ねぇわそんな超理想的かつ超常的な技術……!!」
≪……色々気になったけど、最後のやば過ぎるだろ。えぇえ、薬莢だけ銃に詰め込む事ある……? 持ったら中に火薬入ってるかどうかぐらい分かんだろ……。≫
「…………で、めんどくさいから全部アルヴェルトと機動隊に押し付けた。」
≪いや、本当に偉いよイリス。ほんっと偉い。そうは言いながらちゃんとあいつらが預かるまでちゃんと見てたんだろ? 後、多分イリスの事だからあいつらが怪我しないように配慮もしたんだろ?≫
「……ヘタレの拳銃吹っ飛ばしといた。」
≪ほらぁ、やっぱり。イリス、本当にどうでも良いって思ってる奴は次の奴が仕事し易いように環境を整えるような事はぜっったいしないし、犯人をわざわざそのまま生かしておいておくなんて、帝国法への配慮や尊重を見せるような奴も居ないんだって。お前はやっぱり立派だよ、イリス。≫
「……………………別に。義務だから。」
≪義務でもそれをちゃんと守る奴は偉いんだよ。そう心配しなくても、イリスはちゃんと立派な人格者だよ。≫
「…………あんま褒めんな。調子狂う。」
≪そうだな、つい。そんじゃ、気を付けて帰ってこいよ。また何かあったら呼んでくれ。≫
「……分かった。」
機動隊の突入は、それなりに早かった。最早特務局が圧力でも掛けたんじゃないかと思える程に洗練されていて、迷いのないその一挙一挙はかなり満足度の高い完成度と熟練度で、まさか自分が一時でも特務局以外の組織に感動を覚えるとはまるで予想だにしていなかった。
きっと、それもあの黒幕がヘタレ過ぎて。味気なくて。まるで歯応えがなくて、今回の任務のメインディッシュがまさかの前菜でした、なんてあまりにも不遜極まりない。
……似てる。
ヨハンと話す為、何より機動隊の隊長がアルヴェルトの……ノアの実兄という前情報があったのもあり、敢えて話題として黒幕の拳銃を拾わせ。現に、ノアは機動隊隊長のカイル・アルヴェルトと普通に談笑している。
ノアによく似た黒髪に琥珀色の瞳。それが親しげに話す様は、兄弟というその形は少し、イリスにとっては別の意味で眩しく見える。
……そう、か。そっか。兄弟って似るものなんだ。
「ご挨拶が遅くなりまして申し訳ありません。機動隊隊長の籍を拝命しております、カイル・アルヴェルトと申します。この度は……弟がご無礼を重ねてはおりませんでしょうか。」
「ちょ、兄さん!?」
「いいや。……優秀だよ、お前の弟は。優秀で、よく周りを見ていて、チャンスと正解を掴む実力がある。決して……今の立場で終わらない、芯の強い奴だよ。」
「……! ……はは、まさか弟を褒めていただけるなんて思ってもみませんでした。実は、弟は家でもよく貴方の話をするんです。」
「私の話……?」
「ま、待って待って! 待ってって兄さん! 言わないで!」
「ヴォルカ特務官殿を真似て色々研究してはレポートを残して部屋に積み上げるんですよ。生憎、俺もあまり魔導工学に明るい訳ではないのでどうしても分からない物が多くて苦労しますが……既にそれだけで部屋を1つ潰す程の熱量でして。」
「兄さん……!! 本当に辞めて!!? イリスさんみたいな本物の前で言う事ないでしょ!?」
……。
「アルヴェ、あー……。……カイル。」
「は、はいっ。如何されましたでしょうか、ヴォルカ特務官殿。」
「……お前は、弟が前に出ても嫌じゃない?」
「前……?」
「……! ……はい、ヴォルカ特務官殿。むしろ、今後我が家の誇りになるかと。」
「そ。なら……好きにする。」
「はい。……何卒、宜しくお願い致します。」
「……ん。」
「ちょ、イリスさん!? 何処行くんですか!?」
「中央。……今、昼の13時42分。あの飲食店で……何か食べる。」
「ま、待ってくださいってばぁ……!」




