第21話
「イリスさん。」
「何。」
「その《アイテール》と《エレボス》なんですけど、対なんですよね。」
「そう。」
「《ノクス》に対の武器ってあるんですか?」
「……あるけど。」
「あ、やっぱりそうなんだ。どんな感じの武器なんですか?」
「…………《ワイルドハント》と《フィンブルヴェト》、後は《ワルプルギス》。」
「……………………ん? ちょっと待ってください、《ノクス》っていう綺麗な名前に比べてめちゃくちゃ物騒な名前付いてません? それ、本当に対ですか?」
「ぅん。全部魔導拳銃で、対……というよりは兄弟の方が近いかも。全部、同じタイミングに創ったから。」
「何かしらの性能が違うんですか?」
「ぅん。《ノクス》もだけど……ただの魔導拳銃として使う事も出来るけど、《ノクス》も《ワイルドハント》も《フィンブルヴェト》も《ワルプルギス》も特殊技能が付いてる。」
「特殊技能。」
「《ノクス》は夜間に使うと消費魔力が減って、スナイパーライフル並みの射程になるし、銃弾が途中で破裂して流星みたいに超加速する。《ワイルドハント》は着弾した相手の深い所に浸食して、着弾者を殺した上で配下にする。《フィンブルヴェト》は着弾地点からどんどん周囲が凍結していく特性があって、長時間そのままにしてると勝手に割れて敵を粉々にして……《ワルプルギス》は体内の魔力を逆流させて死に至らしめる。」
「そ、想像以上に殺意高かった……。え、《ノクス》以外はあんまり使わないんですか?」
「ぅん。殺し過ぎるし壊し過ぎる。」
「やっぱり……。」
「《ノクス》が一番良い子。」
「……やっぱり戦場で使う事が前提なんですか?」
……?
「戦場で使う事が前提とされてない武器なんて、ある?」
「すみません、俺が馬鹿でした。」
それにしても、ここまで静かな戦場も珍しい。厳密にはまだ戦場と呼べる程の戦闘がそもそも発生してはいないが、ゆっくり武器の話をしながら気ままに歩けるような経験も珍しい。
ここまで来るとここに潜んでいるであろう犯人はあまり戦闘が出来ないタイプなのかもしれない。だからこそ、自分の元へ辿り着く前に何とか仕留めてしまおうとはしているが想定以上に大物過ぎて情報収集でもしているのだろうか。
その割には何処かで調達してきたハイス種をわざわざ卵から育てて武器にしている。魔力水のインクを精製するのがどれだけの苦労か、それが分からないような気軽に作れる物ではない。
やはり、兵力は全部貴族任せの研究畑か……? 個人的には派手に機関銃でもあちこちに仕込まれてて、それを颯爽と駆け抜けて黒幕の居る部屋の扉を蹴破って銃口を向けるぐらいの激しさは欲しかったのに。
そこまで出来なければ運動とは思えない。故にむしろ、そこまでの激しさが欲しくて焦がれて心が焼かれてしまいそうだ。
「……面白くない。」
「え? お、面白くない……?」
「面白くない。黒幕は恐らく生物学に精通した研究者か、呪術に精通した研究者。多分、アレス侯爵家を抱き込んだのは自分に戦闘能力がまるでない腰抜けだから。それなのに特務官やそれに並ぶ部隊、機関が出動するなんて事はどれだけ馬鹿でも分かるような、違法種族転化なんてふざけた研究をしてる癖にこそこそ隠れて不愉快極まりない。もっと、もっと闘志と殺意と執念を見せろ。どうせあのハイス種の卵を回収したのも別の人間を使ったんだろう、自分の手足が付いてるのにそれで歩く事も生きる事も選択する事も出来ないなんて生物として失格だ、こんな静か過ぎる上にまるで代わり映えのない景色なんてナンセンスが過ぎる!!」
「……イリスさんって、意外とロマンチストですよね。」
「……何処が?」
「名前とかもそうですけど、なんというか……そういう矜持的な物というか。センスというか、結構気にされますよね。」
「アルヴェルト。」
「は、はい?」
「私が関わる世界は常に合理か浪漫、論理で出来ていなければ気味が悪い。後、多少の派手さというスパイスもないと面白くない。」
「極端な上に過激で容赦ないのに何処までもかっこいいそれは何なんですか。……はぁ。じゃあ……そうですね。イリスさん、こんなのはどうですか?」
「?」
「俺達の進路上、後20m程先にあるあの鋼鉄っぽい物で出来てる大扉……《アステリオン》か《アイテール》、《エレボス》で吹っ飛ばすとか。」
「採用。《アステリオン》、進路上の光学スキャンを開始。」
【プロトコル、承認。光学スキャン開始……完了。前方26m先、鋼鉄製扉。高さ2.2m、厚さ0.15m、横幅0.075m。部屋面積70㎡以上、入室後左折し12m付近に生体反応を検知。】
「あそこに居そうですね?」
「《アステリオン》、――射貫け。」
【プロトコル、承認。対物魔導砲展開……完了。安全装置解除を確認。――発破。】




