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『帝国魔導特務録』  作者: 夜櫻 雅織
~ヴォルカ特務官と違法種族転化~

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2/10

第1話

「ヴォルカ特務官殿、まずはどちらへ?」

「現地調査。……他人の纏めた資料なんて当てにならん、現物を見に行く。」

「ではヴォルカ特務官殿、まずはお食事なんて如何ですか? 先程のご様子だと、シュタール主任はお休み中のヴォルカ特務官殿にお声掛けされたようでしたし……胃に何も入れない状態での勤務は後に響きますよ。」


 ……まぁ、頭の回転は遅くない、か。


 ひょんな事から就けられてしまったこの男、その口調や仕草、足取りなどから見るに正直所属を疑いたくなる程の暗殺者特有の癖が全くない。これでもしも本当にあの異端審問教会がお熱の帝都隠密暗影殲務局の人間なら相当な手練になる。

 少なくとも何処かに蹴躓いて転けるような事もなく、ファンだと宣う割には常軌を逸脱した過剰な付き纏い行為や媚び入ろうという空気すら感じない。

 その一方でよく周りを見ていてあんな、まるで説明の欠片もないような状況で。アルドリックの発言だけで状況を察し、イリスに行き先を聞いておいて軌道修正を図るような豪胆さも持ち合わせている。


 正直適当な所で置いてきてやりたいが……歩幅がなぁ。


 最初こそは一般人にしか見えなかったこの男、共に街を歩けば歩く程に“一定距離を保ちながら”着いてきている。約1mと少し後ろを歩いてきており、更にはイリスが横目で確認し易いよう真後ろには決して立とうとしない。

 これが、一般人の思考で成せる訳がない。


「……。」

「もし宜しければ美味しいお店、ご紹介しますよ! あ、勿論帝都からは出ませんし、ここから数分の所にあるんです! 今の進行方向だと……多分、道中にあると思いますよ?」


 実力はともかく、所属自体は間違ってなさそうだな。


「……あまり油っこい物や量の多い物は好まない。」

「あっさり系の、パスタのお店ですよ。一応ピザとかもありますけど、あそこはペペロンチーノとか海鮮系のパスタが絶品なんですよ!」

「……混んでたら現場に直行する。」

「う”……。ま、まぁ、この時間ですから大丈夫ですよ、行きましょう!」


 それにしても、久々に歩く町並みその物に変化はなくとも何処か重い空気が漂っている事は間違いではなさそうだ。それなりに多かった路地へ続く道も何かしらの大きな荷物やフェンスで封じられ、帝国民か。それとも専門機関の仕業かは分からないが彼らも彼らで治安の悪化を遅滞させんと努力しているらしい。


 それで足りなかったから、私が呼ばれたのだろうけど。


 ここで問題なのは、何処まで民草に恐怖が伝染し、何処まで情報が漏れているかだ。もしも彼らの世間話の話題に選ばれる程に認知率が上がっているのであれば後の仕事が増えかねない。

 情報とは、一度漏れると塞ぐ事はかなり珍しい。それこそ、国1つを犬猫や虫に至るまで一切を1匹も生存を許さずに殺し尽くさなければならない程に事態が悪化する事すらもある。――敵に回る、又は敵に回らせられる事を防ぐ為に。

 帝国の為に、なんて綺麗事で済ませられる範疇を優に超えているのにそれでも民草はそう叫ばなければならない。あろう事か、皇帝を神格視している異端審問教会の所為で。


「…………真っ先に潰すべきはあそこだろうに。」

「ヴォルカ特務官殿?」

「気が変わった、多少並んでいても待つ。席は人の声がよく聴こえる所だ。」

「はい! 少しでも事件に関連性のある情報が拾えると良いんですけどね〜……。」


 ……こいつ、暗務局(あそこ)の教会派閥の人間か。そりゃあ異質な訳だ。


「あ、見えてきました! あそこのお店です!」


 彼らの進路上に鎮座する例のパスタ店はどうやら家族で訪れるような、非常に庶民的なブランドらしい。それなりに業績も良いのか建物1つを占める程の規模で客の出入りもそれなりに激しいようだ。


 ……。


「ヴォルカ特務官殿……? どうして急に眼鏡なんて」

「ヴェルカー。今から街に居る間、私の名前はヴェルカーだ。」

「あ、はい! ……え、という事はもしかして、その眼鏡って少し前に論文を発表されてた認識乖離魔導回路が組み込まれた眼鏡ですか……!?」


 本当にこの男はイリスの書き上げた論文を読み込んでいるらしい。依然としてキラキラとした目で視線を送ってきてはいるが、イリスが一言も反応しないのを見て過剰には踏み込んでこないようだ。


「あ、いらっしゃいませ! 何名様です……あ、アルヴェルト君! 今日はお兄さんと一緒じゃないの?」

「はい! 今日は最近この国に来たばかりの兄のご友人さんを街案内するよう頼まれてて……。今からここでお昼にしたいんですけど、席空いてます? あ、出来ればお店の中心が良いんですけど……。」

「空いてるよ、メニューが決まったら声掛けてね!」

「はーい!」

「……咄嗟の作り話が上手いじゃないか、アルヴェルト。」

「よく上司に振り回されるんで、慣れちゃって……。あ、そっか。すみません! 俺、何か不都合でした……?」

「……いいや。折角だ、その設定を借りる。」

「っ〜……!! はい!」

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