第11話
「……ヴェルカーさん。」
「何。」
「俺、ちょっと気になった事があって。」
「ぅん。」
「一応あの書類を主教様から戴いた時に中身については若干の説明を受けては居たんですけど、ちょっとどうしても腑に落ちない事があったんですよ。」
「ぅん。」
「あの資料を見る限り、少なくとも主教様……又は異端審問教会はヴェルカーさんと同じようにこの帝都西部に犯人が居ると見ています。だから不自然に貴族の数が減ってたり、玄関に入っただけで直ぐ分かるような違和感があったり、ご丁寧に瘴気を体内に含んでる死体も置いてあった訳です。」
「ぅん。」
「……でも、それって不自然じゃないですか?」
「……?」
「勿論、ヴェルカーさんが昨日仰ってたようにわざと仕込んでるとは俺も思ってます。でも……1晩考えて明らかにおかしいと思った事があって。」
「……もったいぶるな、早く言え。」
「あの人狼の死体、縫合痕がありました。人間の体に人狼系の魔物の体、又は人狼系の魔物の体に人間の体の一部を縫合してわざとあの死体を作ってます。瘴気が発生していた事実を鑑みれば、多分後者だとは思いますけど……帝都西部は元々軍人系の貴族が多い街です。こんな所で魔物が出るなんて、まずありえないと思うんです。出ても討伐出来るでしょうし、仮に対処しきれない程に出たとすれば既に隣接してる中央や北西部、南西部にも魔物が雪崩れ込んでこんなに自由に、かつ安全にエリアを渡れるとは思いません。……その反面で、軍人系の貴族が少なくて医療系の貴族が多いエリアがあります。」
「……帝都北東部。数年前まで医療大国アスクリア領だった街か。」
「はい。空振りかもしれませんが、少なくとも死体が帝都西部から川に乗って流れていったとすれば……最終地点も帝都北東部です。」
「……は。面白い、付き合ってやる。飛ばすからしっかり掴まれ。」
「はいっ!」
「《アステリオン》、音声操作システムを再起動。魔導スラスター及び重力反射システムを起動。路上走行シーケンスから海上航行シーケンスへの移行を命ずる。並びに、広域光学迷彩魔導回路システム及び広域静音魔導回路システムを起動。最適化を図れ。」
【プロトコル、承認。路上走行シーケンスから海上航行シーケンスへの移行予約……保留。――警告。移動シーケンス変更時は大きな揺れが発生する為、車体から振り落とされる可能性があります。移行予約を実行しますか?】
「え、海上航行!?」
「構わん、進めろ。」
【アドミニストレータオーバーライド、承認。移行予約……完了。エンジンタイプを魔導スラスター運用へ変更に伴い、航路確保結界システムを展開予約……完了。重力反射システム、広域光学迷彩魔導回路システム、広域静音魔導回路システムを起動予約……完了。《アステリオン》、全工程予約完了。システム設計に従い、予備動作を実行してください。】
「さぁ、行くぞ……!」
「うわぁ……!?」
本来であれば、昨日調査した途中のまま放棄していたアルタル侯爵家のお屋敷の前を高速で通り過ぎる。相変わらず不気味なこの街は《アステリオン》が戦場を駆けるような速度で走ったとしても、動く物がない所為で進路を妨害する物が存在しない。
数分も走り続けると数十m先に大きな川が見えてくる。――件の、死体が捨てられる川が。
「え……。ま、待って待って待って待って!! 待ってください!!? ちょ、正気ですか!!?」
「はははは! 楽しいなぁ、アルヴェルト!」
「ぜんっぜん楽しくないですからね!!?」
さぁ、それはどうかな? お前も暗務局の人間ならこれぐらい楽しめないと生きていけない神経だろう?
速度を落とす事なく《アステリオン》を走らせ、片手でハンドルを握りながら《ノクス》を指輪から大口径の魔導拳銃に変形させて……柵を、撃ち抜く。
本来であれば川への落下を防ぐ為の柵が《ノクス》の大口径の弾で曲がり、それを《アステリオン》で思いっきり蹴り飛ばすようにして突っ込んで破壊。そのまま、車体は必然的に宙へ投げ出される事になる。
「ひぃ……!!」
「ははははははは!」
【予備動作を感知、予約されたシステム及び変更を実行します。】
つい先程まで大型バイクだった《アステリオン》が空中でそのタイヤの周囲にボートのような黒い船体を生じさせ、タイヤには結界が張られる。後輪の左右には魔導スラスターが発生し、川の流れを検知して下へ向けられていた噴射口を背後へ向ける。
本来であれば川の流れに着地するのではなく向こう側の柵にぶつかるはずの《アステリオン》は重力反射システムを利用して車体と川の流れが垂直になるよう宇宙船が旋回するようにぐい、と向きを調整して――着水する。
やがて、本来であれば馬鹿でかいスラスター音が鳴るはずだというのに、タイヤが水を掻く音すらも広域静音回路システムによって人間が歩く足音レベルにまで控えられ、飛び散るはずのえげつない量の水飛沫は車体から1mも離れると空中で魔力の粒子へと変換されて消失する。《アステリオン》が、川の水面をバイク兼船として走る。
「……。」
「どうしたぁ、アルヴェルト。この程度で放心状態になるたぁ肝が緩いんじゃねぇかぁ?」
「……っ、普通こんなのありえないじゃないですか!! そりゃあ誰だってびっくりしますよ!!」
「はははは!! 何かと腹を決められる癖にこういうのは苦手なんだなぁ!」
「ほんっとうに規格外過ぎるんですよ、貴方は……!!」
ぴぴ。ぴ
「はぁ~い。」
≪イリス、お前っ、急過ぎるだろ!!? 何だよ、アルタル侯爵家に行く予定じゃなかったのか!? 何処行く気だよ!≫
「帝都北東部、元アスクリア領だ。」
≪はぁ!!? 帝都北東部って……ほぼ真反対じゃねぇか! 何しに行くんだよ!?≫
「勿論調査だよ、ヨハン。お前も昨日言ってただろう? 西部から1家門だけ、状態不明にも生き残りにもなってない家門が居るって。」
≪えぇえ……? アレス侯爵家の事……? いやまぁ言ったけど、何で急に……。≫
「例の人狼の死体。あれは人狼の魔物の死体に人間のパーツを縫合して作った餌だった事が判明した。という事は、少なくともあの死体を作った犯人は医学知識のある人物だ。だが、人狼の魔物というのは本来群れで行動し、帝国軍人でもそう簡単に首を落とせる奴の方が少ない。それに、この川を下れば同伴してるアルヴェルトに因れば帝都北東部に続いてるそうだ。」
≪そ、そりゃあ確かに続いてるし、アレス侯爵家は……。……………………え、もしかして川に死体投げ入れてたのって。≫
「西部で素体を手に入れて、それをなるべく人目を避けながら安全に北東部へ運ぶ為だよ。私達はまんまと騙されたんだ、違法種族転化が起きているのは北東部で、その為の材料を手に入れていたのが西部。そして……北東部が本当の現場である事を隠す為に西部でわざわざ事を起こして噂を流したんだよ。」
「あ、あの、この川ですけど北東部では暗渠になってて、道路の下を流れてるんです! 前に兄が別の地域ですけど暗渠に隠れてた犯罪者を確保する時に帝都全域の暗渠の地図を拡げてたんで憶えてます!」
「だそうだ、ヨハン。聴こえたろ? ……いやぁ、ほんと。楽しくなってきただろう?」
≪…………あ”~ぁ、もうっ! んだよ、そいつ全然使えるじゃん、何でお前の隣に居るのが俺じゃねぇんだよ!!≫
「は、何だそれ。」
「……?」
≪じゃあ、もう西部は良いんだな?≫
「あぁ、どうしてくれても構わん。早く警備ドローンを再起動して一斉捜査を始めろ。私達は北東部へ行く。」
≪――はい、シュタール主任に連絡入れた! 後は主任が良い感じにしてくれんだろ、先にカメラで北東部モニタリングしとくから!≫
「りょーかい、宜しく頼むよ。」
≪クソ、何でそこに居るのが俺じゃねぇんだよぉ……!!≫
「ふふふ。悔しいなぁ、ヨハン?」
≪超悔しいよっ!!≫
「ははははは!!」
ノア「……?」




