第10話
「またのご来店をお待ちしております。」
「……なぁ。」
「如何されましたか?」
「……いや、良いや。とりあえずこれ、受け取っといて。」
「これは……。このような大金を戴けるような事は」
「あんた、やっぱりアルドリック・シュタールの部隊の人間だろ。あそこの部隊は他と動きが違う。……今後も似たような事があるかもしれないし、そしたらこれはむしろ安いぐらいの額だし。…………受け取っといて。」
「しゅ、シュタール隊長!? と、いう事は……い、いえ、失礼致しました。では……お言葉に甘えて、頂戴致します。」
「ん。……まぁ、長くやれ。」
「はい。いつか、シュタール隊長にも来ていただけるよう尽力します。」
「そう。頑張って。」
別に声を掛けてやるぐらい、してやらなくもないのに。
今でこそ特務局主任のアルドリックだが、元々は数ある帝都特殊部隊の中でも黑薙隊と呼ばれていた特に危険な場所への突入や制圧、そして一切の生存を許さない殲滅作戦を主に担っていた部隊の元隊長だった。
一応は還暦になった事をきっかけに退役したとは聞いているが、そんなアルドリックは謎が多くある。皇帝と親しい関係にあったり、帝都に領地を持つ公爵だったり。果てには帝国の臨時外交官として皇城に呼び出される事もある。
だが、決して自分語りをしようとはしない。
更に不可解な事に、全知掌握のアルドリックなんて呼び名が就く程に帝都情報局を容赦なく上回るレベルでの情報収集能力や異端審問教会ですらも口を噤むレベルの暗殺技術まで身に就けていると来た。正直、彼は肩書きがあまりにも化け物過ぎる。
しかも、これまで行われてきた帝国の戦争では必ず名簿にその名前が載っている。やれ司令部を壊滅させたやら、やれ戦闘機を単独で撃ち落としたやら。どれもこれも伝説に残る物ばかり。
リックがまだ軍人だった頃は……種族転化前だから、今と違って人間だったはずなのに。
何はともあれ、今は任務だ。アルドリックを知っているという事は必然的にヴィクトルの事も知っているだろうし、この店の事は後で教えれば良い。もしかするとアルドリックに関しては既に知っているかもしれないが。
音声操作システムを切っている関係から《アステリオン》に鍵を差し込み、それをトリガーに出現したホログラムモニターを操作して
「……何してる。」
「え?」
「早く乗れ。歩いていく気か?」
「え、乗って良いんですか!?」
「駄目なら最初から声なんて掛けない。」
「の、乗ります、乗せてください!」
「……だから乗れって言ってるじゃん。早く。」
「はいっ!」
必要に応じて車体の左右に魔動機関銃を搭載させる関係もあり、大型バイクである《アステリオン》はエンジンが魔導水晶である関係から、タイヤの摩耗さえ気を付けていればあまりやりたくはないが魔導列車ですら引き摺る事が容易な馬力を誇っている。
そんな物を街中で走らせる事が出来るのも、ある意味特務官としての特権だ。一般人が真似しよう物なら平気でタイヤを撃たれてクラッシュし、運が良ければ生きたまま刑務所。運が悪ければあの世逝きとなる。
「メットはないから。」
「あ、じゃあやっぱり軍用車なんですねこれ。」
「特務官が一般車になんぞ乗る訳ないだろ……。ほら、行くぞ。」
「はいっ!」
初日はノアをこんな至近距離に置いておきたくなかった事。《アステリオン》が前の任務で大破し、整備中であった事。何より状況把握の為、まずは自分の足で歩きたかった事から敢えて徒歩での調査を行ったが……ある程度分かった以上、徒歩での捜査はもう必要ない。
急いでいる訳ではないのでなるべく車間距離と走行速度には気を付けているが……《アステリオン》は大型バイク。ふとした拍子に速度が上がってしまう為、なかなかにやり辛い所はある。
「あの、ヴェルカーさん。」
「何。」
「ちょっと思ったんですけど……こんな軍用車平気で乗り回してる時点で偽名の意味がないような気がしてて。」
……。
「……《アステリオン》、環境適合システムを起動。疑似中型フォームでの走行を維持しろ。」
【……。】
「《アステリオン》? ……あぁそうだ、音声操作システム切ってんだ……。……ほら、これで良いか。」
「え、中型バイクに見える。何したんですか。」
「光学迷彩魔導回路。認識乖離魔導回路は認識を若干ずらすだけで、どうずれるかは使用者の方で設定出来ない。その点、光学迷彩魔導回路は使用者が見え方を設定する事が前提の技術だ。それで中型バイクに偽装してる。」
「…………えっと、ヴェルカーさん?」
「……今度は何だ。」
「ヘルメットがないのも……帝都道路交通法違反なんですけど……。」
「…………はぁ。《アステリオン》のシステム範囲は《アステリオン》本体と保有者の私だけだ、自分の頭は自分でどうにかしろ。」
「え、じゃあ今傍から見てヘルメット被ってないように見えるの俺だけ!!? や、やば、兄貴に怒られる……!!」
「はぁ……。」




