第9話
「……おはよう、アルヴェルト。コンディションは。」
「え、あ、はいっ! おはようございます! 今日もめちゃくちゃ元気です! そ、それより……ヴェルカーさん?」
「何。」
「……その、見るからに改造車なのに凄い最適化されてそうなバイクはなんですか?」
「愛車。」
「え、嘘、かっこいい!! じっくり見て良いですか!?」
「却下。……ほら、注文しても直ぐ食べられる訳じゃないんだから。」
「はぁーい……。」
念の為、移動中に音声操作システムを切っておいたので別途出現しているホログラムモニターを操作し、《アステリオン》の自律直立システムと固定ブレーキシステムを再起動する。これで鍵を取っておけば、そう容易に盗めるような物ではない。
……破砕防御結界システムも起動しておくか。
ちょっと忘れる所だった認識乖離魔導回路の組み込まれた眼鏡を掛けておけば言う事ないだろう。後は、任務に集中すれば良い。
「……朝は結構空いてるんだな。」
「実は、ちょっとお渡ししたい物があって貸し切りにしてもらったんですよ。」
「え、貸し切り?」
「はい。俺、あんまり普段給料使わないんで余っちゃって……。ま、まぁ、俺とヴェルカーさんが居る間の1時間にも満たない時間だけなんで、お代要らないって断られちゃったんですけどね。」
なかなかにやる事は大胆だったらしい。てっきり開店直後故に店が空いているのかと思いきや店員に対してもこの時間は勤務させない方針を取ったらしく、イリス達の注文が決まって手を挙げるのを目で見て判断出来るよう、店の奥のカウンターで鼻歌でも歌いそうな様子で諸々の準備をするガタイの良い男が見える。
生憎、元よりあまり人に興味を持たないイリスではあれが元軍人である事は分かってもその顔で何処の部隊に所属していたかまでを見破る知識はない。
「……それで? そこまでして私に渡したい物というのは。」
「これです。俺もちょっとよく分かってないんですけど……主教様がヴェルカーさんに、と。何でも今回の任務、異端審問教会の方でも色々調べてたみたいで、現状分かっている情報を全て共有するそうです。……それにしては薄いんですけどね。この茶封筒。」
「……貸せ。」
「はい、どうぞ。お役に立てるかは分かりませんが。」
あの主教の事だ、イリスとの付き合いも決して短くはないあの男がまさか嫌がらせで共有する情報を渋るような訳がない。これは、イリスが求めるであろう情報だけが抽出されてここに記されているのだろう。
……。
「……開く前に頼んでしまおう。」
「あ、じゃあ俺注文しときます。その書類にも付与します? 認識乖離魔導回路術式。」
「いいや。……恐らくあいつは見ない。」
「分かりました。」
セヴェリウスも秘匿性の高い情報故に裏面は白紙にしていたようで、中から書類を全て取り出しつつも茶封筒を背にし、その文面に目を通していく。
ノアに呼ばれて注文を聞く為に傍まで来た店主も……やはり元軍人だ。余計な問題に首を突っ込んで抜けられなくなるのを恐れる軍人らしい特性から、イリスが書類に目を通し始めるなり体は2人に向けていても顔は決してイリスの方へ向けない。
軍人というのは元来そういう物だ。余計な事に首を突っ込めばその首が物理的に消えるか、又は物理的に消えかねない何処かへ送られる。そういう風に、遠回しに着々と数を減らしていくのが軍隊における不純物の排除方法だ。
この店主とやらがそれを命じる側だったのか、それともその惨劇を見た事があるのか。……はたまた、そこから運良く生き延びたのか。それは、本人にしか分からない。
これは……。
「アルヴェルト。」
「はい。どうされました?」
「この書類を預かる際、何か言われなかったか?」
「……やっぱりヴェルカーさんは主教様の事をよく知ってらっしゃるんですね。では改めまして、ヴェルカーさん。主教様からの伝言です。――“敵は1人ではない”。ヴェルカーさんが主教様からの伝言がある可能性に気付いたら伝えろと。」
「……全く、良い性格してやがる。」
しかし、これで核心は得られた。特務局主任アルドリックと同様に何処までも執念深く、何もかもを暴き出さなければ気が済まないあのセヴェリウスがそう言うのであれば間違いないだろう。
「黒幕は貴族を盾にしている。……そして、その拠点は昨日調べた帝都西部で間違いなさそうだ。」




