第12話
「……え。」
「な、何あれ、凄い……!!」
「……ヴィクトル先輩、あの大地の海は……一体?」
「……蒼海の丘。世界的に何処の国も中立を保ってる、まぁまぁ世界的に重要性の高い観光地。丁度航路だし……こいつも楽しめると思ってな。」
艦橋内より見える、まだ数十㎞先に位置する大陸は……一面、真っ青だった。なかなかに大きな島のようで、まるで地平線の彼方まで今は夜間だと言うのに無限に広がる淡く輝く何かが幻想的な世界を作り出している。
他の特務官達と共にそれを眺めるイリスの表情は……何処か、呆然としている。恍惚とも感動とも違う、どちらかと言えば驚きが強いだろうか。大きく目を見開いてそれを眺め、彫刻とまではいかないが完全に固まってしまっている。
……少なくとも悪い印象ではない、のかな。
「あっこが今回の探索先か?」
「あぁ。日付が変わるまでな。」
「おー、短い。にしても……綺麗な花畑やな。」
「花? トウマ先輩、あれって花畑なんですか?」
「おん、そうや? 蒼月華言うてな、月明かりと月の魔力を吸収してなかなか独特な魔力を貯め込んでは夜間になるとああやって綺麗に輝く花や。」
「恋人にプロポーズの時に贈られたりとか、何かのお祝い事に国同士が花束で送り合うような凄い花なんだよ。」
「一応……高度な魔法薬の材料や特殊な魔法生物の餌としても利用されるけど、あの花は結構規制が厳しくてね。国じゃなけりゃなかなか手に入らないんだよ。何より、何処の国も自国栽培に成功してないんだよ。」
「え、してないんですか!!?」
「してない。何が悪いのか、何が良いのか、さ~っぱり。」
「俺達も試した事あるぞ。……まだイリスが来る前に。」
「やっぱり、イリスだったら出来ちゃうのかなぁ……。ねぇ、ヴィクトル。ちょっと摘んでいって良い?」
「バイク1台分ぐらいまでな。」
「はーい!」
「俺もちょっと摘んでいこっかな……。滅多に手に入らないし。あ、そうだ。イリス、蒼月華で冠でも作ってあげようか。」
「冠……?」
「…………ヴィルヘルム、そんな女の子みたいな事出来たんだ。」
「覚えたんだよ、イリスの為に。」
「安定やなぁ。」
「あ、そろそろ着くよ! 早く降りよ降りよ!」
「ノア。なるべくイリスの傍に居ろ。」
「はい! イリス先輩、お手をどうぞ。」
「…………ん。」
着岸し、《黎閃》から降りた先に拡がる世界はあまりにも幻想的だ。艦橋から見る限りだとただ綺麗な、何処までも広がる淡い光の絨毯だったが……近くで見るとちゃんと花だ。
しかし、花と言っても形状は様々なようで、スズランのような物。菊のような物。鬼灯のような物。リンドウのような物。ユリのような物と、なかなかにレパートリーが多い。この全てが……蒼月華、らしい。
これ……全部。
ノアがあまりにも神秘的かつ幻想的な光景に感動する反面で、ふと。隣に居るイリスの腕が持ち上がって遥か蒼月華の海の向こうを指差す。ここからはまだ、ただ蒼月華の水平線しか見えないその先を。
「……あっち。……あっち、行きたい。……あっちにある、あの人達の忘れ物。」
「あの人達の忘れ物……?」
「……どう、しよう。」
「……まぁ、行くだけ行ってみるか。別にアルドリックからも“〇日までには帰れ”って言われてねぇし、観光以外で何か目的があんならそれもそれで良いだろ。……ほら、行くぞ。蒼月華のお陰で足元は明るいけど気ぃ付けろ。特にイリス。」
「……ん。」




