第10話
「……イリス。」
「んー?」
「ちょっと試したい事がある。」
「……?」
空間拡張魔術からヴィクトルが徐に取り出したのは……黒い、軍服。軍服とはいえど、あくまで外套だけにはなるが……それを見たイリスの反応は、かなり顕著だった。
目を大きく見開き、背筋を伸ばして突如、首に生えた逆鱗や複数の鱗がカタカタと細かく音を鳴らしてガラガラヘビのように騒ぎ立てる。尾に関しても先だけが揺れて同じように音を出しており、瞳も反転目となって明らかに……警戒している。
医者又は研究者は大丈夫で、軍隊は駄目……?
それで十分だったのだろう。乱雑に、「はい、居なくなりました」と言わんばかりにヴィクトルが外套を空間拡張魔術の中へ放り込む。その頃にはイリスも元に戻っており、何食わぬ様子でまたリュウセイ種の心音を全身で聞いている。
「……そういう事らしいな。」
「ふむ……。なら、元々黒衣の研修者か医者もおったって事か。やから、明らかに軍物である外套には警戒しおる。」
「……だな。そうなってくると、俺がこの私服で警戒されなかったのはお前らと居たからか……? アルドリックが警戒されたのも、あいつが元軍人ってのが理由だった可能性もあるんだろうな。」
「……俺、少し思い当たる事が。」
「うん。」
「元々、ラグナレイズ帝国は大賢人エスメラルダが色々研究されてた土地です。……もしかすると、同じ大賢人とはいかなくても助手とか、協力者の方々と色んな研究をする中で……。……その、ラグナレイズ帝国側が何かしらの圧を掛けた事があって、それをイリス先輩は憶えてるんじゃないですか? それも……こんなに早い段階に思い出せるぐらいには、強烈な記憶が。」
「……馬鹿に出来ない仮説だね。」
「……実際、あの国にはエスメラルダ以外の大賢人が複数人居たらしいぞ。」
「え、そうなんですか?」
「おう。……20人強の大賢人があそこに居て、その大半があそこで死んでる。」
「20人強の大賢人……!?」
「……さて。あの国は何処まで頭がおかしいのかな?」
「……半分以上なんちゃって大賢人だったりしない?」
「だったら良かったんだがな。」
また何か変化が訪れたらしい。リュウセイ種に身を預け、大人しくしていたイリスだが……ふと、リュウセイ種に身を預けたままではあるがくたぁ……と全身の体を抜く。
……?
「イリス?」
「……………………お腹空いた。」
「あ、そうか。もうお昼か。じゃあご飯にしよう。」
「~~~……! うん!」
「……んじゃ、今回は俺が作ってくるわ。確認とはいえ、不快にさせたのもあるしな。」
「美味しいの期待してるから。」
「まずい飯なんて作った事ねぇだろ。……ったく。」




