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14、辺境の街セレスタ

ギムレットは街の入り口近くの脇道で荷馬車を止めた。ソルは荷台から降りた。御者台のイーリスはソルの手を借りゆっくりと降りる。。


「あんたたちは魔術師と騎士みたいだな。」

「魔術師と騎士?」


ソルはそれが何なのか知らなかった。


「最近王都で流行ってる演劇だ。貴族の令嬢である魔術師と盾の騎士が悪をぶっ飛ばす痛快活劇で面白えんだよ!」

「黄昏れジャックみたいですね。」

「おっ、嬢ちゃん渋いの知ってるねぇ!」


ギムレットは嬉しそうに笑っている。ソルは黄昏れジャックも何なのか分からない。


「で、その主人公の魔術師と騎士にあんたたちが何となく似てんだ。悪党をやっつけちまうところとかな。」

「ソルさん、何だか照れますね。」

「そうか?」


イーリスの顔からは笑みがこぼれていた。自分は騎士という存在とは対極にいると考えているソルは、似てると言われても実感がなかった。


「じゃあな、あんたらのおかげで助かったわい。」

「俺たちも同じだ。」


ギムレットはこれから親族がいる村に行き、馬を交換するらしい。休憩時間も惜しいようだ。二人は馬たちにも別れの挨拶をした。


「婆さんに会えるといいな!儂は王都の南に住んでるから、もし来ることがあったら寄ってくれや。もてなすぞ!」

「ありがとうございます。」


荷馬車が動き出しギムレットは手を振った。ソルは手を軽く上げて挨拶しイーリスはお辞儀をしていた。


「ちゃんと嬢ちゃんを守ってやれよ!騎士サマ!」


ニヤリと笑うギムレットにソルは苦笑する。騎士というガラではないのに。

荷馬車は徐々に速度を上げ遠ざかって行った。


「面白い人でしたね。」

「あぁ、面白いが無茶な爺さんだったな。」


二人は街の入り口へ向かった、

この街は周囲を城壁に囲まれており、門から入るようになっている。門の前には警備の騎士団員が立っていた。街に入る者の身元確認や監視をしている気配はない。人の往来が多すぎてそれどころではないのかもしれない。


人の流れに乗り門から街へ入ると人々でごった返していた。道の両端にはずらりと露天商がひしめいており市場のようだった。軽食を出している店もありいい匂いがする。奥の広場では見せ物をしている大道芸人の姿も見える。今日は祭りか何かなのだろうか。人々の活気と熱気が伝わってくる。

この人の多さでは目的の店を見つけるのは骨が折れそうだ。


ソルは人の波をするりと抜けて、メインの通りから一本入った小道へ出た。この辺りで地元の人に道を尋ねた方が早そうだ。後ろを見るとイーリスがいない。はぐれてしまったようだ。

道の端からイーリスを探すが、背の低い彼女は人々に埋もれているのか頭すら見えなかった。

壁に寄せて置いてある木箱の上に乗って、もう一度見渡すと、入り口の城壁付近で立ち尽くしている彼女を発見した。


急いで戻り、固まっているイーリスの手を取る。彼女はハッとして顔を上げた。その目には不安と困惑があった。


「すまん、置いておくつもりはなかったんだ。」

「いえ…私もついて行こうとしたんですけど人が多くてソルさんと他の人の区別がつかなくなってしまって…」


魔力探知があれば何でもわかるという訳ではないようだ。これまで常人とほぼ同じようについて来れていたので、つい目が見えないことを失念してしていた。


「ここで魔力探知すると情報量が多過ぎて頭が痛くなります…」


彼女の眉根には浅い皺が寄っている。無理はさせない方がよさそうだ。


「よし、魔力探知はやめて俺の腕に掴まっとけばいい。」

「え?」

「何もわからなくなるのは不安だろうが、ちゃんと誘導するから心配するな。」


ソルはイーリスの左手を自分の右腕に掴まらせた。


「いや、これじゃ外れ易いな。」


人混みの中で波に揉まれてしまうと、彼女の握力では離してしまうかもしれない。

ただ掴むのではなく腕を組むように掴まらせた。これならはぐれることはないだろう。

イーリスはまだ少し不安そうではあるが行くしかない。


「行くぞ、裏道はそんなに混んでないからそこまでの辛抱だ。」


彼女はこくりと頷き、腕にぎゅっと力を込めた。

ソルは歩調を緩め人の波に入って行く。前から来る人々を避けながら、進行方向へ進む人の流れに乗る。ちょうど前に甲冑姿の大柄な男二人が並んで歩いていたので、その後ろを歩いた。案の定、前から歩いてくる人は皆自然と男たちを避けるので楽だった。

ある程度進んだところで脇道に入った。こちらは人通りが少なく歩くのに支障はなさそうだ。


「イーリス、もう離しても大丈夫だぞ。」


ちらりと彼女を見るが腕を離す素振りはない。


「あの、こっちの方が楽なのでこのままでもいいですか?」

「別に構わないぞ。」


イーリスは安堵するとソルの服を握り直した。

二人は近くにいた妙齢の女に、換金できる店と杖を扱う店の場所を尋ねた。ついでにこの賑わいについても聞いてみる。

今日は月に一度の市場の日だそうだ。セレスタはハルバハールとガルドラントの国境に近く交易する商人がよく訪れる。始めは商人たちが内輪で商品や情報のやり取り、商談を行っていたが徐々に規模が大きくなり今は祭りの催しのようになっているとの事だ。


女に礼を言い小道を進んで行った。ここからだと換金できる店の方が近いので、まずそちらへ行くことにする。

城壁の方へ進むように行くと店を見つけた。こぢんまりとした店で壁には震える文字で珍品、骨董買取できます、と書いてある紙が貼ってあった。


中に入ると、いろんな商品に埋もれるようにして小さな老人が座っていた。老人は二人に気づいて老眼鏡をかける。一瞥し、愛想のない声でいらっしゃいと言った。


「両替と換金をお願いしたい。」


ソルはイーリスの家で回収したガルドラントの銀貨三枚と石や古い硬貨を出した。

老人は拡大鏡を使って一つずつ鑑定している。果たしていくらになるのだろうか。

しばしの後鑑定を終えた老人が紙に何やら書きこんで見せてきた。

紙にはそれぞれの値段と合計金額が書かれていた。思っていたより少ない。


「もう少し上げられないか?」


老人は面倒そうに無理と言い、金額の理由を説明し始めた。


「ガルドラントは内戦が続き金の価値が安定しないからそんなもんだ。石ころたちは全部宝石の原石じゃが、サイズが小さいから価値は低い。古銭の方は古過ぎて鑑定できん。買い取るなら最低金額じゃ。」


無情な説明だが金額が妥当だということはわかった。古銭だけ回収してあとは老人の言い値で両替、換金した。手に入れられたのは銀貨七枚と銅貨十枚だけだった。


ソルはふと老人の後ろの棚にガラスケースに入れられた甲虫の抜け殻のようなものに気づいた。あれと同じものをイーリスの小箱の中で見ている。

老人にケースの中身を尋ねると趣味で収集しているものだという。コレクターが多く価値も高いらしい。


「買い取りもしてるのか?」

「しておるぞ。状態がいいなら金貨三枚で買い取っておる。まぁ、希少なものじゃから持ち込みに来たのはこの60年で二人だけだの。」


もし見つけたら買い取るからぜひ持って来てくれ、という老人の言葉が遠くに聞こえる。ソルの頭の中は小箱の中の抜け殻でいっぱいだった。

何故あの時抜け殻を持って行こうとしなかったのか。金貨三枚あればしばらく生活に困ることはない。悔やまれるが今更どうしようもないので忘れることにした。


店を後にするとイーリスは落胆した様子だった。


「あまりお金にならなかったようですね。私が集めた物は役に立ちませんでしたか…」


タダで拾ったものが銀貨分の価値あるなら十分な気もする。それに金額が少ないのは、より価値あるものを見抜けなかったソル自身のせいである。


「いや、役に立たなかったのは俺の目だ。とりあえずこの金で今日の宿は確保できそうだから大丈夫だ。」


ソルはエリシスの物価はまだよく分かっていなかったが、ガルドラントと然程変わらないと踏んでいた。

まだ魔石と蔦蛞蝓の実があるのでどうにかなるだろう。


イーリスは少し表情を明るくした。ソルは硬貨の入った革袋を腰のポーチにしまうと、杖の店に向かった。


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