王太子殿下の婚約者に会いました
「アンネリカ、実は王太子が婚約する事になったんだ」
疲れた顔で帰ってきたディラン様が、急に突拍子もない事を言って来た。
「王太子殿下と言えば、少し前にカサンドラ様と婚約を解消されたばかりですよね。こんなに早く新しい人と、婚約をするものなのですか?」
カサンドラ様の件があって、まだそう日も経っていない。いくら向こうが悪かったからと言っても、さすがに早すぎるのではないかと思ったのだが。
「王太子も17歳だからね。王宮内でも早急に新しい婚約者を!という話が上がっていたんだ。でも、本人にその気がなくてね。そんな中、急に王太子が今日婚約する事になったと言い出したんだ」
「まあ、随分急ですね。そう言えば、王太子殿下はケーリッヒ王国に行っていたのですよね?」
私が嫁ぐ予定だった大富豪が詐欺容疑で捕まり、アイランド王国で裁く為にわざわざ王太子殿下自ら、ケーリッヒ王国に交渉に行ったと聞いている。
「そのケーリッヒ王国で、王女を引っ掛けて来たんだよ」
ため息交じりに話すディラン様。
「まあ、それはよかったじゃないですか!王太子殿下はカサンドラ様の事で、随分苦労されたのでしょう。そんな中、素敵な人を見つけたのなら、応援して差し上げましょう」
ディラン様の話では、随分カサンドラ様の事を、嫌っていたとの事。そんな中、愛する女性を見つけたのだ。ぜひ応援してあげたい。
「アンネリカは優しいね」
そう言うと、ギューッと私を抱きしめるディラン様。私もギューッと抱きしめ返す。
「それで、もう王女様はいらしているのですか?」
「それが、隣国の大富豪を引き渡す代わりに王女を貰う事になっているらしくて、明日また王太子が大富豪を連れてケーリッヒ王国に向かうんだ。アンネリカ、すまない。君と君の家族を苦しめた相手を、俺の手で裁けなくなってしまった」
申し訳なさそうな顔をするディラン様。
「ディラン様、そんな事気にしないで下さい。私はディラン様に嫁げましたし、結局うちの借金もディラン様が返してくださったではありませんか!ディラン様には感謝しかありませんわ」
本当に、ディラン様は私たちを救ってくれた神様なのだ!
「ありがとう、アンネリカ。それで、アンネリカにお願いがあるんだ。実は今回王太子の婚約者になる女性は、母親の身分が低い為、冷遇されていたみたいでね。貴族が苦手な様なんだ。それで、庶民的な君に話し相手になって欲しいと頼まれてしまって。もちろん、嫌なら断って貰っても構わないよ!」
「私にですか?私で良ければ話し相手になりますが、王女様ですよね。大丈夫でしょうか?」
いくら母親の身分が低いからと言っても、相手は王女だ。少し前まで貧乏令嬢だった私で、対応できるだろうか?
「その点は大丈夫だと思うよ。もちろん、俺も側にいるし」
「ディラン様がいらっしゃるなら、何とかなりそうですわね。それに、少しでもディラン様のお役に立てると思うと、とても嬉しいですわ」
何1つ恩返しが出来ていないのだ。ここは頑張って、ディラン様のお役に立たねば。
無駄に気合いを入れるアンネリカだった。
そして10日後、ついに王太子殿下の婚約者に会う日がやって来た。今回は、王宮の一室で会うとの事。
イザベラの結婚式以来の外出にワクワクする一方、王女様と仲良く出来るのかという不安が交差していた。
「さあ、アンネリカ様。出来ましたよ。今日も格別にお美しいですわ」
「ローラ、いつもありがとう。本当にあなたは、私を化けさせるのが上手ね」
ローラは本当に化粧が上手なのだ。貧相な私も、ローラに掛かれば立派な公爵令息夫人だ。
「もう、アンネリカ様ったら。相変わらず謙虚なんですから!」
私の言葉に、クスクス笑うローラ。私本当の事しか言っていないのに、なぜ笑われているのか全く理解できない。
「アンネリカ、準備は出来たかい?」
ディラン様が部屋に入ってきた。ちなみにキッチンを作る為に工事に入っていた私の部屋は無事完成し、今は自分の部屋で過ごしている。もちろん、南京錠3つは付けられたままだが…
「ディラン様、準備はばっちりですわ。今日もローラに可愛くしてもらいました」
「アンネリカ、今日は外に行くんだよ。あまり可愛くする必要はない!」
なぜか怒られてしまった。ローラも気まずそうにしている。ごめん、ローラ。心の中で謝っておいた。
「さあ、ディラン様。早く参りましょう。遅刻しては大変です」
「そうだね、気が進まないが行こうか。わかっていると思うが、俺から離れない事。これだけは、絶対に守って欲しい」
「はい、大丈夫ですわ」
今日もしっかり私の居場所が分かるよう、左胸にはエメラルドのブローチが付いている。一応鎖を付けられることは無くなったが、“アンネリカが言う事を聞かなくなったら、外出時には鎖を付けるからね”と言われている為、気が気ではない。
ディラン様にエスコートされ、馬車に乗り込み王宮へと向かう。それにしても、王宮なんて初めて行くわ。緊張する!
何を隠そう貧乏令嬢の私は、王宮なんて今まで一度も行った事が無い。その為、物凄く緊張しているのだ。全く話さない私を見て、クスクス笑い始めたディラン様。
「緊張しているのかい?アンネリカ。大丈夫だよ、俺もいるから」
耳元で囁くディラン様。いくらディラン様が近くに居ようと、緊張するものは緊張するのだ。
とうとう王宮に着いてしまった。
ディラン様に連れられて王宮の中へと入っていく。それにしても、王宮内はかなり立派だ。美しい絵はもちろん、高そうな壺なども飾られている。キョロキョロしているうちに、王太子殿下たちが待つ部屋に着いたようだ。
「アンネリカ、分かっていると思うが、俺の許可なく離れてはいけないよ。王太子にどんな無礼を働いても良いが、これだけは守って欲しい」
ディラン様、今さらっと凄い事を言いましたが、さすがに王太子殿下に無礼なんて働きませんよ…
「アンネリカ!返事は?」
「はい」
私の返事が遅かったせいで、ディラン様に怒られてしまった。普段は優しいが怒らせると怖いディラン様。極力怒らせない様にしているのだが、何分どんくさいもので、つい怒らせてしまう。
「アンネリカ、めちゃくちゃ面倒くさいけれど、そろそろ中に入ろうか」
露骨に嫌そうな顔をするディラン様にエスコートされ、部屋の中に入る。
部屋には王太子殿下と、水色の髪に桃色の瞳をした美しい女性がいた。私たちを見ると、少し怯えたように王太子殿下にすり寄る女性。なるほど、庇護欲をそそる女性ね。
それにしても、本当に美しいわ。王太子殿下が惚れるのも無理はない。
「遅くなってすみません」
面倒くさそうに頭を下げるディラン様。私も一緒に頭を下げた。
「やあ、ディラン、それにファイザバード公爵令息夫人。よく来てくれたね。彼女が僕の婚約者でケーリッヒ王国第17王女のメルダシアだ」
「メルダシアと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
まだぎこちないながらも、何とかカーテシーを決めるメルダシア様。それにしても第17王女ですって。現国王はどれだけ子供がいるのかしら?
「初めまして、メルダシア王女。私はディラン・ファイザバードです。こっちは妻のアンネリカです」
「アンネリカと申します。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
ディラン様に続いて私も挨拶をする。
「さあ、堅苦しい話は無しにして、お茶にしよう」
王太子殿下の言葉でみんな席に着いた。明らかに怯えているメルダシア様。
なんだか気まずい雰囲気のまま、ティータイムが始まったのである。




