王太子が婚約するらしい~ディラン視点~
アンネリカの友人の結婚式から数日が経った。
思い返せば、あのデブハゲオヤジを捕まえて約1ヶ月半が経過したが、未だにこの男を裁けないでいる。なぜかと言うと、ズバリ、あのデブハゲオヤジが他国の民だからだ!他国の民を裁く場合、その国に許可を取らなければいけないと言う、面倒くさいルールがある。
そこで王太子に頼んで、ケーリッヒ王国までお使いに行ってもらった。
「ディラン、僕が留守の間、僕の仕事をよろしく!後、本来であれば君が行くべきところを、特別に僕が行ってあげるんだ!その事は忘れないでくれよ」
陛下に頼んで特別に王太子の仕事を俺が引き受ける事になったうえ、恩まで着せていくなんて、図々しい男だ。
それならなぜ自分で交渉に行かなかったって?それは、アンネリカと離れたくないから!これ以上の理由などない。
その王太子が今日帰ってくるのだ。それにしても交渉するだけで、1ヶ月以上も掛かるなんて、どれだけどんくさいんだよ!
そう思いながら登城すると、既に王太子が帰って来ていた。
「やあ、ディラン。久しぶり。しっかり仕事をこなしてくれていたみたいだね。助かったよ」
にっこり笑う王太子。
「そんな事より、しっかり交渉して来てくれたのでしょうね!早速あの男を裁きたいのですが」
「その件なんだがね、ケーリッヒ王国でも色々と調べたところ、あの男かなり色々とやらかしていたみたいでね。相手国から、逆に引き渡して欲しいと言われちゃったんだ!」
てへっと、舌と出す王太子。何が“言われちゃった”だ!こいつ俺をバカにしているのか?
「それでもちろん、断ったんでしょうね?」
あのデブハゲオヤジは俺の手で裁きたい。アンネリカやその家族を苦しめたんだ。しっかり制裁を加えるべきだ!
「そうそう、僕、婚約する事にしたんだよ」
「は!!!何を言っているんだお前は!」
余りにも突拍子もない事を言いだしたので、つい怒鳴ってしまった。
「そんなに怒るなよ。今回ケーリッヒ王国に滞在した際、王宮でお世話になったんだけどさ。そこに居た第17王女を気にいってしまって。貰う事になったんだ」
何だって!そもそも第17王女って、どれだけ子供いるんだよ。まあ、あそこは一夫多妻制だから普通なのか?
よくよく話を聞くと、心優しく動物好きの第17王女に、完全に心を奪われてしまった王太子。ケーリッヒ王国の国王に掛け合って、見事第17王女を手に入れる事に成功したらしい。
「そうそう、第17王女を貰う見返りに、あの大富豪の引き渡しを要求されたから、渡す事にしたよ。悪いけれど、あのオヤジ、さっさとケーリッヒ王国に渡しちゃうね。そうしないと、僕の可愛いメルダシアをこの国に呼べないんだよ」
こいつ!女を手に入れる為に、あのデブハゲオヤジを引き渡す事に同意したのか!
「ディラン、君ならわかってくれるだろう?欲しい女を手に入れる為なら、何でもするという事を」
にっこり笑う王太子。確かにこいつが言っている事は間違っていない。物凄く腑に落ちないが、仕方ないか。
「わかりました。至急あのデブハゲオヤジを、隣国に引き渡す手配をしましょう」
俺の言葉を聞き、明らかに嬉しそうな顔をする王太子。クソ、なんだか癪に障る。
「それより、国王や王妃には話は通っているのですか?王太子ひとり勝手に決めて来てもダメでしょう」
こいつは王太子だ。自分1人の意見で決められる訳がない。
「父上も母上も了承してくれているよ。母上なんて、このまま僕が結婚しないのではないかと思っていた様で、かなり喜んでいたよ。2人共、カサンドラの事で責任を感じているところもあるみたいだしね。それに彼女は一応王女だから。身分的にも問題ないよ」
なるほど。確かにカサンドラの件で、こいつ(もちろん俺もだけれど)の株は随分上がった。それにしても、キャンベル公爵は色々な貴族に嫌われていた様だ。
「それと、メルダシアは王女でありながらメイドの子供だった為、冷遇されていたらしくってね。自分の身の回りの事は何でも出来るし、料理も出来るらしいんだ。君の奥さんもそんな感じだよね。だからさ、メルダシアがこっちに来たら、話し相手として君の奥さんを紹介するつもりだから、よろしく頼むね」
当たり前のようにさらっとふざけた事を抜かす王太子。
「ふざけるのも大概にしろ!どうして俺のアンネリカを、お前の婚約者の話し相手にしなきゃいけないんだ!他を当たれ」
「そんなに怒るなよ!メルダシアはずっと冷遇されていたんだ。特に上流貴族が苦手でね。君のところの奥さんは誰にでも優しいし、庶民的だからさ。中々いなんだよね。僕の知り合いで庶民的な子って」
こいつ、アンネリカを何だと思っているんだ!
「もちろん、ただでとは言わないよ。3ヶ月後に君たちの結婚式があるよね。結婚式の後、1週間お休みをあげるから」
1週間だと!そんなもん、元々貰うつもりだ!
「1ヶ月だ!」
「う~ん、じゃあ10日!」
「10日なんてダメだ!最低でも2週間よこせ!」
「分かったよ、じゃあ2週間あげるから。ね、お願い!」
仕方ない、若干丸め込まれた感はあるが、2週間休みを貰うと言う条件で、アンネリカに会わせることを認めた。ただし、俺の監視の下でという条件付きだ。
そして翌日、デブハゲオヤジを連れた王太子が再びケーリッヒ王国に向かった。あのオヤジを引き渡し、代わりに第17王女を連れて帰って来るらしい。
ちなみに王太子がいない間は、俺が再びあいつの仕事をする事になった。クソ、あの男、俺をどれだけこき使う気だ!最初にケーリッヒ王国に行った時はアンネリカの為だと自分に言い聞かせ、あいつの仕事をこなしたが、今度は違う。
やっぱり休みは1ヶ月貰わないと割に合わない!
帰国したら早速王太子に交渉しようと、強く誓ったディランであった。




