山伏と陰陽師(2)
そうこうしているうちに、注文の品を携えたマスターがやって来た。
杉山と平木の前にカフェオレが、そして俺の前にはブレンド珈琲のマグサイズが置かれた。
『腹減ってないか?サービスで何か出すぞ?』
『いいんですか!?』
マスターの言葉に、平木が目を輝かせた。
『新生活スタートへの餞だ。適当で良いか?』
『勿論です!』
平木が益々嬉しそうに答えた。
それを聞いたマスターは、
『了解。』
と笑ってカウンターに引き返した。
カウンターに戻ったマスターが厨房に入ったのを確認して、杉山がぼそっと言った。
『なんだか今日は、特別に機嫌が良いみたい。』
どこか不安気なのが気になった。
『何か問題か?』
そう訊ねると、困ったような顔になった。
『問題と言う程でもないけど、何か起こりそうな気がする。』
『気にしなくてイイんじゃないか?機嫌が良いのは良いことだ。』
不安気な杉山を他所に、平木がお気楽にそう言った。
『うん。そうなんだけど…。』
『それよりさぁ、何が出て来るんだろうな?』
目の前の杉山の様子より、マスターからの餞の方が気になるらしい。平木は、そわそわしながら厨房に目を向けた。
置き去りにされた子犬のような顔になった杉山が、再びジョンと重なった。
『何か起きたらその時に考えれば良い。だからもう気にするな。』
ジョンと化した杉山が哀れで、つい、甘やかすような言葉をかけてしまった。
案の定杉山は、目をうるうると潤ませて、嬉しそうに頷いた。
お前は女子か?と思うのは止めた。最早杉山は、ジョンにしか見えなくなったからだ。
『登喜男、例の物が届いたぞ。ガレージにあるから見て来てくれ。』
厨房から顔を出したマスターが、杉山に声をかけた。
『もう届いたんですか?』
『早いよな。俺も驚いた。どんな具合か試してくれないか?』
『解りました。』
立ち上がろうと椅子を引く杉山に、平木が訊ねた。
『例の物ってなんだ?』
『ピンボールだよ。』
『ピンボール!?俺も行きたい!』
平木が椅子を引いて立ち上がった。
やれやれ…。気忙しいヤツだな。
壁際に座っていた杉山が通れるようにと、俺も席を立った。
『吉元君も来る?』
『いや、俺は遠慮しておく。』
杉山に訊ねられて、片手を挙げて辞退した。
『staff only』と書かれたドアから二人が出て行くと、やっとホッとした。
あの二人と一緒だと、調子が狂いっ放しで疲れる一方だった。だから、二人から解放される状況は非常に有り難い。
人心地ついてマグに口をつけた。珈琲の芳しい香りが鼻から抜ける。
至福に浸っていると、いつの間にかマスターが目の前に座っていた。
酷く驚いて、大いに噎せた。
『大丈夫か?』
心配するマスターに片手を挙げて応える。そして、お絞りを口に充ててひたすら噎せた。
やっと落ち着いたところで、マスターが笑ってこう言った。
『俺に聞きたいことがあるんじゃないか?遠慮なく聞いてくれ。』
見透かされたようなその言葉に驚いた。今度は噎せずに済んだが、生唾を飲み込んだせいで、喉がゴクリと鳴ってしまった。




