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俺様ですが、恋はします。  作者: 柊 繭子
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山伏と陰陽師

 目の前の大男は、『喫茶ダイス』のマスターで俊郎さん。どう見ても30代半ばだが、実はギリギリ20代。

 そして、魔法が使えるらしい。

 それに加えてあの口上。


 【魔法中年俊郎ちゃん】


 って…。

 筋肉隆々で浅黒い肌。ラグビー選手のように逞しく引き締まった肉体に、時代劇俳優のような渋くて凄みのある顔立ち。ご隠居の横で、悪人に印籠を突き付ける役が似合いそうである。

 そんな見た目の大男が自分の名に『ちゃん』を付けた。そして真顔での『魔法が使える』発言。


 なんとかこのカオスな状況を飲み込もうと試みたが…ダメージが大きすぎて無理だった。


 『マスターごめんなさい。俺、40前だと思ってた。』


 『そりゃひでえな。健雄から聞いてなかったのか?』


 『うん。』


 『俺も30半ばだと思ってた。』


 『裕司まで俺をオッサンだと思ってたのか?マジでお前ら、失礼だろ?』


 『すんません。』


 平木がヘラヘラ笑って頭を掻いた。


 『お前さんはどう思ったんだ?』


 やはり御鉢が回って来たか…。初対面の相手に気が引けたが、失礼を承知で正直に述べた。


 『俺も30半ばだと思いました。』


 『お前さんまで…。何が問題なんだ?俺の何がオッサンに見せてしまうんだ?』


 マスターが俺に訊ねた。悲観するような言い回しに反して、表情は面白がってるようだ。


 『頼もしい感じと落ち着いた外見からそう思いました。』


 『落ち着いた外見ってつまり…。』


 両手で顔を鋏んで、ムンクの『叫び』のような格好になったマスターに、慌てて言い募る。


 『そ、それに口調が…』


 『口調がなんだ?』


 身を乗り出したマスターにたじろぐ。


 『べらんめえと言うか、粋な感じで…』


 『で?』


 『今時じゃないと言うか、チャラチャラしてないので…』


 『で?』


 『俺達と違うちゃんとした大人の印象からの30半ばだと…。』


 『成る程な。』


 言葉を重ねる度にグイグイと迫り来るマスターのお陰で、変な汗をかいてしまった。


 『あ、それ解る!浅草の叔父さんと同じ喋り方だ。』


 『そっかー、言われてみれば口調が原因かも。』


 平木と杉山が同調してくれたお陰で、マスターからの追求から逃れることが出来た。

 マスターも納得してくれたようだ。注文を取ってカウンターに戻って行った。


 『さすが吉元君。マジで助かった。』


 小声で言う平木につられて、俺も小声で返す。


 『ったく…。頼むから、思ったことをそのまま口にするな。』


 『ごめん。今度から気を付ける。』


 杉山が悄気ながら、素直に謝った。


 『てか、らしくないよな。杉山ってさ、相手が傷付くこと絶対に言わないだろう?なんで今日に限ってあんな爆弾落としたんだ?』


 平木の問いに、杉山はばつが悪そうに答えた。


 『変な自己紹介のせいで皆固まっちゃったでしょう?すごく良い人なのに、変な人って思われたら可哀相だと思って、何か言わなきゃと思って…。』


 『で、焦って?』


 『うん。ごめん。』


 益々悄気て俯いた杉山が、少し気の毒になった。


 『そうか…。優しさからのあの発言か。悪かったな。』


 俺の言葉に、俯いていた杉山が顔を上げた。目をキラキラさせて、パーッと明るい顔になっている。その様子に、昔飼っていた柴犬を思い出した。構ってやると、嬉しそうに尻尾を振っていた柴犬のジョン…。今の杉山の様子は、ジョンにそっくりだ。


 ( ………。)


 複雑な気持ちになった。




 注文した品を待つ間、平木と杉山は他愛もない話をした。現国の講師の癖がどうのとか、同じクラスの女共の化粧がどうのとか…。

 その横で俺は、適当に相槌を打ちながら、別のことを考えていた。マスターの発言のもう一つの問題点、『魔法』について。

 普通に考えたらウケ狙いだろう。だが、何かが引っ掛かる。少しやり過ぎ感があるために引っ掛かるだけなのか?

 いや、そうじゃない。

 引っ掛かるのは、あの『違和感』があるあらだ。

 考えを巡らせながら、話しかける平木に適当に相槌を打った。すると、


 『よし、じゃあ決まりな!明日の昼休みに地下に集合。』


 と、肩を叩かれた。


 『は?』


 話が見えない。


 『は?じゃないよ。さっき『うん』って言ったやん。』


 しまった…。

 俺としたことが墓穴を掘ったようだ。

 適当にやり過ごしたことを後悔したが、時既に遅し。


 『吉元君とも有ろうお方が、無下にするとか無いよな?』


 そう言って、ニヤリと笑う平木。

 コイツ…。

 適当に流してるのを知ってて振りやがったな。

 ムカついたが、抵抗すると面倒くさいことになりそうだ。不本意だが仕方ない。


 『解った。昼休憩に地下だな。』


 仏頂面の俺を他所に、顔を見合わせて喜ぶ二人が恨めしい。

 だが仕方ない。

 無理矢理納得して、タバコに火を点けた。


 『ぐっちゃんも喜ぶね。』


 『あんま好きじゃねえから関わりたくないけど、紹介するまでしつこくしそうだからな。マジで良かった。』


 どうやらこの二人は、面倒くさそうな相手と、俺を引き合わせるつもりらしい。


 (お前らなぁ。)


 言いたいことが山程浮かんだが、面倒くさくなりそうなので我慢した。

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