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俺様ですが、恋はします。  作者: 柊 繭子
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俺の存在感って、一体…(3)

 不幸にも、意に反して友人が出来てしまった。

 恙無く予備校生活を終える為に、これ以上親睦を深めないようにせねば!

 従って、一刻も早くコイツらから離れなければならない。


 幸いにもコイツらは、今から午後の講義がある。そして俺は自習で図書館だ。


 良かった…なんとか無傷で済みそうだ。


 初日のしくじりは初日のうちに軌道修正する。そうすれば、最小限のダメージで、暗黒の一年を終えられるはずだ。

 そう。

 俺にとってこの一年は暗黒の時代なのだ。むしろ、暗黒でなければならない。

 全ては、あのクソ爺への復讐の為なのだ。


 暗黒の時代に友人など必要ない。


 なのに、


 『これから喫茶店にいくんだけど、吉元君も一緒にどう?』


 と。


 いやいや、お前ら午後の講義はどうすんだよ!


 『午後も講義だろう?』


 『いや、俺ら私立文系で緩いんだ。今日は午後自習。』


 マジか。

 てか、お前ら大丈夫か?浪人してる自覚は無いのか?

 

 『そうなのか。俺は講義だから遠慮しとく。』


 本当は図書館にて自習だが、この際嘘も方便である。


 『え?自習だろう?リサーチ済みだよ。』


 平木が不敵に笑った。


 『リサーチって…誰から聞いたんだ?』


 平木の顔が、無駄に得意気でムカついた。マジで、リサーチってなんだよ!


 『サキちゃんだよ。』


 おい!登喜雄、お前もグルかよ。

 てか、


 『サキちゃんって誰?』


 『受付のお姉さんだよw』


 って…コイツ、なんでまた嬉しそうにしてやがるんだ?その喋り方はなんなんだ?やっぱりお前、女子なんだろう?

 って、それどころじゃなかった!

 情報源は受付のあの女か!確かに入校手続きの時に居やがったな。自習の交渉時も話を聞いてやがったのか! 


 『マジでアイツ…』


 『ムカつくとか言うなよ。サキちゃん傷つくよ?吉元君のこと、美形の秀才ってべた褒めしてたんだから。』


 平木の奴が、また不敵に笑いやがった。

 コイツ…完全に面白がってんな。


 怒りが沸点に達しそうだった。だが、此処で怒りをぶちまけるのは、それこそ軌道を外れる行為である。

 眉間に指を充てて、無駄だと解っているが、グイグイと揉んだ。


 これは予定を変更しなければならない事態だ。

 この二人が何処まで知っているのか?そして、サキちゃんとやらがどれくらいの人間に俺の情報を流したのか?

 今後の為にも、詳しく探っておかなければならない。

 頭の中で今後の動きを確認していると、


 『吉元君ってさ、自分の存在感をナメてんじゃないの?』


 と、平木が意味不明な事を言いやがった。


 『どういう意味だ?』


 納得出来る答えは期待出来ないのだろうが、一応聞いてみた。


 『自分が思ってる以上にすげえって事を認識してないんじゃないかなー?って。』


 『 ………。』


 なんだそれ?

 聞いたところで、やっぱり納得は出来なかった。


 仕方ない。

 平木のこの、初対面とは思えない図々しさも気になるし、不本意だが喫茶店に付き合おう。


 かくして俺は、仲良くなりたい訳ではないのだが、端から見たら『親睦を深める』行為をすることになってしまった。





 随分歩いた。


 近くの店に行くつもりが、玄関前で平木の取り巻きの女共に見つかって、撒くのに歩き回る必要があったからだった。


 歩いている間にも、二人は煩わしく話しかけてくる。

 深入りしたくは無いが、これから探る内容如何で事態が変わるかも知れない。無闇に無下にするのは危険である。

 当たり障りのない内容で受け答えをしてやり過ごした。


 角を曲がる度に取り巻きは一人消え二人消えして、なんとか全員を撒くことが出来た。

 些かうんざりしてきたところで、


 『着いた。此処だよ。』


 と、間の抜けた声で杉山が言った。

 説明しておく。

 杉山とは、登喜雄のことである。此処まで来る間に、互いを名字で呼ぶ事に決まったのだった。わざわざ決める程のことではないのだが、杉山のテンションで『健一君』と呼ばれ続ければ、変な噂が立ち兼ねない。なので、必要案件として提案したのだ。

 なんとも馬鹿馬鹿しい理由である。


 連れて来られたのは、感じの良い小洒落た店だった。


 蔦の絡まるレンガの外壁に、黒い鉄の窓枠。分厚いドアは、木目の感じから年代物だと解った。

ドアの上に設えてある看板には本物のサクソフォーンが埋め込まれており、店名は…


 『ダイス。』


 無意識に声に出していた。無意識での行動なんて、緊急時以外は滅多に無いことだ。

 自然に口にしていたと云うより、言わされたような感覚に違和感を覚えた。


 (なんだろう?)


 その些細なことが、妙に引っ掛かった。


 『早く入ろう、喉乾いた。』


 『ああ。』


 平木に促され、感じた違和感は置き去りにして、中に入った。

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