俺の存在感って、一体…(2)
俺のこの顔は災いの元でしかない。昔からそうだった。
コイツと一緒に剣道を習い始めたのも、この顔が原因だったのだ。
小1の、学校からの帰り道。いつものようにコイツと帰路を辿っていると、二学年上の男児が三人、ちょっかいを出してきた。所謂ガキ大将と、その取り巻きだ。
『女男!お前、本当はオカマだろう?』
今なら聞き流せるが、当時の俺は純粋で、言われる度に傷ついた。その日は、最初に言われてから何十回目かの罵倒で、我慢の限界だった。
『俺は男だ!オカマじゃない!』
そう言い返して、初めて向かって行った。
いつも泣きべそをかいて黙っていた相手が、初めて向かって来たのだ。今思うと、相手は相当ビビったのだろう。ビビったから、小1のチビを寄ってたかって殴ったのだろう。
最初は痛かったし、殴り返そうと試みもした。だか、殴られ続けているうちに、痛みが解らなくなり、次第に殴り返す気力も失せていた。
『健ちゃんを虐めるな!』
登喜雄が加勢してくれたが、相手の狙いは俺だ。向かって来る登喜雄には目もくれず、ポーンと弾き飛ばして俺を殴り続けた。
気がついた時には、登喜雄の祖父に背負われていた。
『健坊頑張れ、もうちっとで家に着くからな!』
登喜雄の祖父は、俺を背負って、自宅に着くまで励まし続けてくれた。
その傍らで、
『健ちゃんが死んじゃう、健ちゃんが死んじゃう!』
と、兄の健雄君に手を引かれて、登喜雄が泣きながら叫んでいた。
その日のことを聞きつけた、あのいけ好かない母方の爺が、
『情けない!虐められるのはお前が弱いからだ!』
と、少々乱暴な解釈を振りかざして、俺を剣道の道場に放り込んだのだった。
後に聞いた話だが、ガキ共が俺を虐めた理由は、俺が『女顔』だからだったらしい。
この顔に生まれたのは俺が望んだからではない。何とも理不尽な理由である。
登喜雄の兄の健雄君も綺麗な顔立ちをしていたが、虐められたのは一度だけだったらしい。何故一度で済んだのか?
健雄君は、初回で頭突きして、相手を怯ませたかららしい。
それを考えたら、祖父の言い分は正しかったのだろう。
だが、正しかったとしても、腹立たしいことには変わりは無い。
俺が殴られ、登喜雄が突き飛ばされているところに健雄君が通りかかり、ガキ共を撃退してくれた。健雄君は泣いている登喜雄に、
『畑に行って、爺ちゃんを呼んで来い!』
と命じ、見事な采配を振るったとのことだった。
であるからして、俺がこの顔を嫌っているのは、コイツが一番良く知っているはずなのである。
なのにコイツは今、『格好良いもん』とぬかしやがった。最悪である。
『兎に角!俺はこの顔が嫌いなんだ。二度と言わないでくれ。』
言いたいことの殆どを省いて、最小限に纏めた上で言ったのだが、登喜雄は目の前で小首を傾げやがった。
(はぁ……。)
もう、ため息しか出ない。
暫くの間、小首を傾げやがった登喜雄の返答を待っていたが、返ってきたのは予想外の方向からだった。
『贅沢言うなよ。男前なんだから、目立つのは仕方ないだろう?』
なんですと?
声のした方に顔を向けると、ひょろっとした印象の、気障っぽい男が立っていた。
『平木くん!』
登喜雄が嬉しそうに、そいつの名を呼んだ。
『探したぞ!女子達に聞いたら、王子様と地下に行ったって話だったから来てみたんだ。』
『王子様じゃないよ。健一くん…じゃなくて、吉元君だよ。』
『あ、そうなの?悪い悪い。女子達が王子様って呼んでたから、つい呼んじまった。』
おいおい、俺を置き去りにして俺の話題を持ち出すな。
てか、王子ってなんだ?キレても良いか?
『はじめまして、吉元君。俺は平木。杉山と同じクラスだよ。宜しくな。』
平木とやらが、右手を差し出した。握手を求めているらしい。
眉間に思いきり縦皺を寄せている相手に握手を求めるとは…どうやらこの男も、登喜雄と同類で、空気の読めない人種らしい。
最早、頭痛も目眩いも、どうでも良くなった。
『どうも。』
抵抗するのは諦めて、平木の手を握り返した。
予備校生活に友人など必要ない。
はずだったのだが、俺の意思とは関係無く、否応なしに友人が出来てしまった。
( …………。)
果たして俺は、無事に一年を過ごせるのだろうか?
頭痛と目眩いを通り越して、かなり不安になっていた。




