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俺様ですが、恋はします。  作者: 柊 繭子
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『運命』は忘れた頃にやって来る(5)

 原口のクラスの奴らと挑むことになった合同模試。

 日程は、5月の最後の土曜日だ。

 当日は予備校からバスに乗っての移動か、直接会場に向かうか選べるらしい。

 勿論、直接会場に向かうつもりだ。ただでさえ気が重いのに、連中と共にバスで向かうのは御免被る。


 そんな事を考えているうちに、益々気が重くなってしまった。

 もう一度ため息をついた。すると、


 『ため息が出るような話だったのか?』


 と、タイムカードの前から声を掛けられた。声の主は田辺だった。

 首を傾げて苦笑している姿が、慈しみに溢れて見えた。


 『面倒だが大した話じゃない。一日我慢すれば済むことだ。』


 思わず愚痴が出てしまった。

 いつもなら『何でもない』と言って誤魔化すか、そのまま無視して遣り過ごすのだが…田辺の独特な雰囲気のせいだろうか?本当に、不意に出てしまっていた。

 その田辺はというと、苦笑したままで一層目を細めて、


 『我慢って…あんまり無理するなよ。』


 と言うと、俺の左肩をポンと叩いた。


 『ああ。』


 と言って頷いて見せたところで、地下から平木が上がって来た。俺達を見つけて走り寄ると、ニヤリと良くない顔で笑った。


 『面白い展開になったから呼びに来た。吉元も来いよ。原口の彼女が来てるんだ。』


 『面白い展開?』


 肩から足が生えていると言っても過言ではない、太くて逞しい腕を組んで、田辺が首を傾げた。


 『ああ。来れば分かるよ!』


 平木が益々悪い顔をして笑った。その時点で悪い予感がする。『面白い展開』というと聞こえが良いが、本当は『厄介な事』なのだろう。


 『俺は行かない。じゃあな。』


 巻き込まれる前にとっとと帰ろう。

 そう思って踵を返したら、


 『まあまあ、そう言わずに。』


 と、田辺から腕を掴まれた。足のように太い腕から掴まれたら、流石に振り解くのは困難だ。


 『そうだよ。原口の彼女が来てるんだよ?』


 平木が田辺の掴んだ腕と反対側に捕り着いた。こいつは簡単に振り解く。


 『だからだ!原口みたいな奴と付き合う女を見たところで、何の徳にもならないだろう?どうせ馬鹿な女だ。関わるのは御免だ!』


 思いきり眉根を寄せて、平木を睨む。すると、田辺が盛大なため息をついた。

 この状況で、何故にため息をつくんだ?

 驚いて見遣ると、田辺は困った顔をして静かに首を振った。

 悪戯をした子供を優しく諭すと云った姿に、思わずたじろいでしまった。

 途端に恥ずかしくなった。

 何かマズイ事を言ってしまったのだろう。「何の徳にも」の部分か?それとも、「馬鹿な女」の部分だろうか?

 慌てて考えを巡らせていたら、平木までため息をつきやがった。


 『馬鹿な女って…』


 とだけ言って、平木は咎めるような顔をした。


 『違うのか?』


 「そっちだったか!」と思いながら訊ねると、平木は何度も頷いて見せた。


 『会えば解るよ。そう思ったのを後悔するぐらい、良い子なんだ。』


 田辺からもそう言われ、行くしかない状況になってしまった。


 『解った、だから放してくれ。』


 観念してそう言ったところで、田辺がやっと腕を解放してくれた。

 

 かくして俺は、行きたくもない場所に行く羽目に陥ってしまったのだった。



 前に平木が。そして後ろには田辺が。

 二人から挟まれて、まるで「連行される容疑者みたいだな。」と思った。

 足元に視線を落として階段を降りて行く。

 そして地下に降り立ったところで、奇妙な感覚に囚われた。前方から柔らかい光が差していて、微かに足元を照らしているのだ。

 驚いて顔を上げると、正面の喫煙室が、優しい光に満ちているのが見えた。


 (なんなんだ?)


 今まで見たことのない光景だった。

 人工的なものではなく、どうやら人がら発せられたもののようだ。その証拠に、光は一定ではなく、ふわふわと強さが変わる‥まるで、蝋燭の炎が微かな風に揺れている、そんな感じだった。


 邪悪なものではなかった。

 何故なら、その光に吸い寄せられるように歩が進んだからだ。

 邪悪なものであれば、考えるより先に体が警鐘を鳴らす。「行くな」とでも言うように耳鳴りが鳴り、足が動かなくなるのだ。


 平木がドアを開けて中に入った。

 その後に続いて中に入る。


 ドアの正面の自販機の前に、杉山と談笑している人物‥。光は、そこから発せられていた。


 『あゆちゃん、田辺、連れて来たよ。』


 平木の言葉に、その人が振り向いた。

 一瞬だった筈だ。

 だが、スローモーションのようにゆっくりと、その人が振り向いたように見えた。

 その人は振り向いて、こちらに向かってふわっと笑った。

 柔らかく、優しさに溢れた笑顔だった。

 長い髪を耳にかけ、少し首を傾ける仕草を目にした途端に、信じられない事が起こった。

 雷に打たれたような衝撃が、体を貫いたのだ。


 (ああ…この人か。)


 咄嗟にそう思った。

 そして悟った。


 この人が、俺の「運命のひと」なのだと…。

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