『運命』は忘れた頃にやって来る(2)
俺が『ゲイ疑惑』で苦しむ姿が見たいと言うのだろうか?平木はニヤニヤ笑いながら訂正を拒否し続けた。
『解った。ゲイ疑惑が飛び火すれば気の毒だから、今後はお前と関わらないことにする。』
いい加減うんざりしてそう言うと、平木は慌てて言い訳をし出した。
『そんな意地悪やめろよ。解った、言うよ。実はね、此処の女の子の殆んどが、吉元が好きらしいんだよ。』
『だから?』
『だからさ…ゲイ疑惑で女の子人気が少しでも下がれば、俺らにも希望が…。』
馬鹿馬鹿しいにも程がある。要するに、浪人生には一番ご法度である、色恋の為の拒否だったのだ。
馬鹿馬鹿しくて、久々に頭痛がしてきた。
『言っておくが、俺は頭の悪い女と、尻の軽い女はお断りなんだ。従って、此処に居る女共全てが対象外だ。心配しなくてもお前達の独壇場だ。』
眉間をグイグイと圧しながらそう言うと、平木は情けない声をあげた。
『それを広言しない限り、女の子達の注目の的になるのは吉元なんだよ。俺達に望みはない。』
はぁ…。
もう、ため息しか出ない。
『要するに、モテたいんだな?解った、好きにしろ。』
そこまで言うんなら仕方ない。噂だけでも男色家になってやろう。
そう観念した所に、一人の男が現れた。
長身で浅黒く、筋肉の鎧を纏っている。印象としては、魔法中年敏郎さんを若くした感じだ。
その男は俺達の直ぐ側までやって来て、実に爽やかに笑った。そして、
『そいつのことは気にしないでいいよ。例の件は俺がちゃんと訂正しておく。』
と言いながら、平木の肩をポンと叩いた。
肩を叩かれた平木は、たちまち浮かれた様子になり、その男に抱きついた。
『田辺ぇ!なんだ、来てたのかよ。』
『さっき来た。現場が終わったのが夜中だったからさ、遅刻しちまった。』
抱きつく平木をやんわりと引き剥がしながら、田辺と呼ばれた男が答えた。
『手伝いは終わったのか?』
『ああ。明日からいつも通りに通える。』
『そっかー、お疲れさん。』
『おう!』
拳をタッチして喜ぶ二人を前に、逃げ出そうかと考える。平木を田辺に頼んで、さっさと図書館に避難した方がよさそうだ。
考えがまとまり、退避しようと踵を返した時に、不意に腕を掴まれた。
『屋上に行こう!ジュース奢るよ。』
俺の思惑は、田辺によって阻止された。腕を掴まれ、連行される形で屋上に連れて行かれる事になってしまった。
屋上には学生が数名、各々で寛いでいた。そして、田辺が現れると、嬉しそうに声を掛けてきた。
『久しぶり』と言いながら、全員が笑顔だった。
そんな何気ないやり取りが、とても爽やかな光景に見える。田辺自身が清清しい空気を纏っているからか、見ている此方まで癒される。
不思議な男だ。
手近なテーブルを喫煙エリアまで移動させて、田辺は奥にある自販機まで歩いて行った。平木と二人で椅子を運び、良い案配に配置して座ると、田辺がジュースを抱えて戻って来た。
平木の前にレモンティーを置いて、
『これで良かった?』
と、俺の前にブラックコーヒーを置いた。
『ああ、有難う。俺までご馳走になって良かったのか?』
初めて会ったのに、奢って貰うのは気が引けた。
田辺は隣に座ってコーラのプルタブを開けながら、ニコッと笑った。
『勿論だ。実は、ずっと会いたかったんだ。』
そう言って鞄から煙草を取り出して、テーブルに置いた。
『改めまして、田辺です。これから宜しく。』
そう言って、田辺が右手を差し出した。




