『運命』は忘れた頃にやって来る
原口との最悪な対面以来、俺の周りは劇的に煩わしくなった。
あの日から、屋上で身の上を心配してくれたかつての原口の取り巻きの連中が、事ある毎にまとわり着いて来るようになった。
連中は相変わらず原口の呼び出しにも従っているらしいが、杉山の話では、
『あれから、あんまり無理難題を言われなくなったんだって。ぐっちゃんの事も、前より恐くなくなったって言ってたよ。』
らしい。
『それは良かったな。』
と返すと、女子のようなはにかみ笑いを見せて、コクッと首肯いた。
余談であるが…杉山のこの仕草は毎度の事なので、いい加減慣れっこになってしまった。
数日の間、ひっきりなしに誰かしらがまとわりついていた為、ある程度の情報が手に入った。
原口は、その地域ではかなり有力な医者の息子で、中学から県外の私立校に行ったそうだ。だから地元の連中には、小学生の時の奴の記憶しかない。
小学生時代、原口は正に暴君だったらしい。
金持ちで医者の父を持ち、跡取りだったこともあって、我が儘放題で育てられたようだ。気に食わないと暴力に訴え、息子の暴力は権力者である父親がもみ消す。ドラマや小説等に度々登場する、絵に描いたようなドラ息子である。
中高一貫の学校で寮生活を送っていた原口だったが、高校2年の夏休みに問題を起こして退学になり、地元へ強制送還されたらしい。退学後は現在の予備校へ通い、翌年大学入学資格検定に合格。現役で慶⚪義塾大学医学部を受験するも失敗。そして今に至る。
原口と特に仲の良い菊池と熊谷は、原口の小学校の同級生とのことだ。二人の、原口に関する記憶は、小学校時代で止まっている。喧嘩が強くて頼れるリーダーだったとの記憶から、予備校で再会してからもその記憶に忠実に振る舞っているらしい。
要するに、原口を暴君に祭り上げたのはこの二人である。
菊池と熊谷以外の取り巻き達は、この二人によって集められた。
菊池は私立文系クラスに、そして熊谷は国公立理系クラスに所属しており、それぞれがクラスのリーダーのように振る舞っている。
二人共、高校時代にスポーツで名を馳せた人物で、そこそこ人望もある。だから、この二人に誘われて、なんの疑いもなく原口に会ったが…今思うとそれが悲劇の始まりだったと…。
取り巻きAこと鳴海は、遠い目をしてこの話をしてくれた。話終えて彼は、
『菊池は悪いヤツじゃないんだ。ぐっちゃんとつるむようになって変わっちゃったけど、本当は良いヤツなんだよ。』
と、寂しそうに言っていた。
鳴海は菊池と高校が同じで部活の仲間だった。菊池は野球部のエースで、仲間思いの頼もしい存在だったらしい。
そんなヤツが今では暴君の腹心に成り下がっているのだ。鳴海にしたらやるせない気持ちで一杯だろう。
『人は変わりゆく生きものだからな。菊池の変化は仕方ないだろう。今は悪い方に変わってしまったが、そのうち元に戻るかもしれない。鳴海が信じていれば大丈夫じゃないか?』
あまりにも気の毒で慰めたのだったが、直ぐに後悔した。鳴海は両目を潤ませ、俺の手を握って泣き出したのだ。
『有難う。俺、吉元君が好きだ。大好きだ!』
嗚咽と共に絞り出した言葉にギョッとした。恐る恐る周りを確認すると、言うまでもなく注目の的になっていた。
その様子は瞬く間に広まって、次の日には、
『鳴海君が吉元君に告白したんだって!』
『あの二人、付き合うのかな?』
と、女共の間での旬の話題になっていた。
それを教えてくれたのは平木で、
『聞いた時は腹が捩れるまで笑い倒したよ!』
と、とても楽しそうだった。
そして俺は、とても迷惑だ。
愉快そうに思い出し笑いする平木を、これでもかと云う具合に不機嫌な顔で見据えてやった。
『俺の専門は女だと伝えてくれ。男色家だと噂が広まれば迷惑だ。』
不機嫌な顔のまま訴えると、平木は笑うのを止めてニヤリとした。その、良くない事を考えるような顔で、良くない事を言い出した。
『皆の為に訂正してあげないよ。』
はあ?
何を言ってるんだ?コイツは。
『俺はゲイじゃない。訂正しろ!』
『その方が、俺らには都合が良いんだもん。』
『なんだと?いいから訂正しろ!』
『嫌だね。』
馬鹿馬鹿しい応酬が続いた。




