暴君の正体(2)
やって来たのは原口の取り巻きだった。命じられて来たのか?自主的に来たのか?いずれにしても報復かもしれないと云うのに、二人はのんびりと構えている。
『どうしたの?』
『お前らも飯か?』
臨戦態勢の俺を他所に、平木と杉山がのほほんと問いかけた。
『お前らを探しに来たんだよ。』
やはり報復か?
『そうなんだ。』
『何か用か?』
おいおい、マジかお前ら。
平木も杉山も、危機管理と云う言葉を知らないのか?
『用事って程じゃないけどな。』
『うん、ちょっとお礼をね。』
取り巻きAとBの言葉。
非行少年お得意の、お礼参りなのか?
『うん。俺もお礼が言いたくてさ。』
ん?
取り巻きC、今何と?
『お礼』が言いたい?
報復とか宣戦布告とか、焦臭い事しか頭に無かったからか、『お礼』と云う言葉を。てっきり『お礼参り』かと思っていた。
『吉元君、』
名を呼ばれて、そこで初めて取り巻き達の面々を見遣った。
どの顔も平木と杉山と似たり寄ったりの表情で、拍子抜けも良いところだった。
『な、なんでしょうか?』
調子が狂ったお陰で、吃りと敬語の変な奴になってしまった。
『さっきは有難う。お陰でスッキリしたよ。』
『うん、俺も。誰も何も言えなかったからさ…キレてくれて本当に助かった。』
取り巻きのうちの二人がそう言うと、残りの奴等もコクコクと頷いた。
原口を慕ってつるんでいるのであれば、ある程度意見をすることが出来るはずである。忠告なり助言なりを聞く耳を持たない相手であれば、ソイツと離れれば良いだけの話だ。
やはり、先程地下で感じた通り、仕方なく従っているだけなのだろう。
では何故、陰で愚痴をぶちまけなければならないような相手と、仕方なくでも行動を共にしているのか?断るなり何なりして、つるまなければ嫌な思いをすることもないのだが…。
全く理解できない。
ひょっとしたら、俺の思い違いかもしれない。一応聞いてみるか?
『アンタらは原口の腹心じゃないのか?』
今度は一斉に首をブンブンと振った。
『腹心って、懐刀とか片腕って意味だよな?違うよ。』
『そう言う意味だったのか。だったら絶対ないな。』
『お前、意味が解んないのに否定してたのかよ。』
『いや、なんとなくニュアンス的に解ったからさ。』
『ふうん…そうなんだ。』
俺の一言で、取り巻き達はそれぞれ好きに発言し出した。その様子は、平木と杉山と同じで、お気楽でのほほんとしている。おおよそ、暴力とは無縁に見えるのだが…。
では何故、そんな奴らが、暴君のような原口とつるむのか?
そんな事を考えていたら、杉山が、その謎を解くのに重要な質問をしてくれた。
『あの後ぐっちゃんはどうしたの?』
それを聞いた取り巻き達は、たちまち複雑な表情にななった。
『うーん…よく解んないんだよね。杉山達が出て行った後、直ぐに菊池と熊谷が連れて出てっちゃったから。』
『あー、あの二人が守っちゃったか。』
取り巻きAからの情報に、平木が残念そうに言った。
『そうなんだよ。あの二人が居る限り、ぐっちゃんは無敵で居続けるだろうね。』
平木の言葉を受けて、取り巻きAも残念そうに顔をしかめた。
どうやらその、菊池と熊谷と云う人物が真の腹心であろう。此処に居る取り巻き達は、その表情や会話の内容から、好きでつるんでいる訳じゃないのだと確信した。
『あの三人で何を話したかを考えたら怖いよな…。』
取り巻きCが不安そうに呟いた。
『だよな。ひょっとしたら、三人掛かりで仕返しするつもりかもしれないから…吉元君、気を付けてね。』
心配そうな顔をして、取り巻きAが言った。
取り巻きAの言葉に、残りの取り巻き達も、一様に心配そうな顔を向けてきた。
『有難う。気を付けるよ。』
俺がそう言うと、その場に居た全員が安堵の表情を浮かべた。
今後の事を考えたら、もっと詳しく話を聴く必要がある。なのに、残念な事に始業5分前のベルが鳴ってしまった。
取り巻き達は名残惜しそうに『またね』と言って屋内へ戻った。
平木と杉山も、バタバタと支度をし出した。
『もう少し詳しく知りたいんだが、今度時間を作ってくれるか?』
ツナサンドの残りを口一杯に頬張る二人にそう言うと、口をモゴモゴさせながら『了解』の旨を口にした。
始業開始のベルが鳴る直前に、教室の前で二人と別れる。
その足で裏の玄関から外へ出て、自習の為に図書館へ向かった。




