暴君の正体
喫煙室を出た俺達は、とりあえず屋上に向かった。
喫煙コーナーの脇のテーブルを陣取ると、平木と杉山はツナサンドを開けて食べ始めた。
原口と揉めたせいで、昼休憩が半分潰れてしまった。これから外に飯を食いに行くのは難しくなった為、午後からも講義に出る二人は、売店でツナサンドを買って、屋上で食べることにしたのだ。
此処まで移動する間、二人は終始黙っていた。
口をきいたのは、
『売店に寄っていい?』
『あ、俺も!』
だけであった。
あんな事があったのだ。二人共、俺に対して気不味いのだろう。
気不味いだけならまだ良い。ひょっとしたら、怖くて逆らえずに着いて来てしまったのかもしれない…。
そう考えたら、なんとも申し訳ない気持ちになってしまった。
『さっきは悪かったな。』
無言のままツナサンドを口に運ぶ二人に、素直に謝った。
すると、二人同時に此方を見て、驚いたように目を丸くした。
『なんで謝るの?』
杉山が首を傾げて訊ねた。
『なんでって、お前らの前で暴走したからだ。本当にすまなかった。』
俺がそう言うと、平木が激しく首を振った。
『謝るなよ!俺はスカッとした。キレてくれて有難う、って思った。』
そう言って、目を輝かせた。
『そうだよ!俺もスカッとした。吉元君、最高に格好良かったし、すっごく頼もしかった。』
平木に同調して、杉山も目を輝かせてそう言った。
二人の様子に、なんともこそばゆくなってしまった。大人げなく暴走したせいで、悪戯に怖がらせてしまったのでは?と反省したのに、二人はそれを『有り難い』と思っていたとは…。
二人共が真逆の反応。思い違いも良いところだ。頗る恥ずかしい…。
耳の辺りがカーッと熱くなり、どんな顔をすれば良いのか解らなくなってしまった。
俺のそんな様子には気付いていないのか、平木が感心したように言った。
『てか、合気道も習ってたんだな。剣道も凄い腕前なのに、「向かう所敵無し」だな。』
は?
なんで平木が俺の剣道の腕を知ってるんだ?
さては杉山か?
咄嗟に杉山を見遣ると、激しく首を振られた。
杉山とのそんなやり取りの最中にも、平木が更に言い募る。
『さっきのも凄かったけど…あれも凄かったな。いきなり先鋒で5人抜きって、後の奴らはどんだけ強いんだ?って、マジで怖かったよ。』
ん?
中体連での試合を見られたのか?いや、中学では先鋒の経験がない。
と云うことは…高校で出た、助っ人での練習試合か。
と言うか…
『何故お前がそれを知ってるんだ?』
俺の言葉に、杉山も頷いた。
すると平木は、遠くを見るような表情で語りだした。
『俺さあ、中高で剣道やってたんだよ。中学から始めたから弱くてさ、試合には出して貰えなくて…辞めようかな?って思ってた時に吉元の試合を見たんだよね。そん時は大将だったな。足さばきとか太刀筋とか、威風堂々としててさ…。』
『 はあ…。』
『それから試合の度に探したけど、なかなか見つけられなくてさ。』
『 ………。』
『高校の出稽古の時にやっと会えて、あの5人抜きだよ。あれはシビレたね。それ以来全然見つけられなくて、忘れかけた時に予備校で再会するなんてなぁ…。奇跡だ!って感動したよ。』
聞いていて恥ずかしくなった。それを臆面もなく語る平木が、とてつもなく恐ろしくなった。出来れば、その恥ずかしい記憶ごと、完全に忘れた状態で出会いたかった。
『だから名前を知ってたんだね。サキちゃんから聞いたのかと思ってた。』
杉山が感心したように言った。
『入校手続きで来てたのを見かけてさ、サキちゃんに聞きに行ったんだよ。さっきの人って、吉元って名前じゃない?って。その時にあらましを聞いてさ…意気投合して盛り上がったな。』
『成る程、そうだったんだね。』
杉山が、納得したように頷いた。この会話で杉山への疑いは晴れたが、なんとも複雑な流れである。
何処からどう意見しようかと迷っていたら、杉山が此方に顔を向けた。そして、ニコッと笑って、
『ね?俺じゃないでしょ?』
と。恥ずかしい発言の平木に加えて、お気楽な様子の杉山にも、何も言えなくなってしまった。とりあえず、『ああ。』とだけ言って、黙るしかなかった。
『ずっと聞きたかったんだけどさ、先鋒での試合、あん時の大将って、どんだけ強かったの?』
俺の沈黙を破ろうとでもしてるのだろうか?
いや、ただ空気が読めないだけだな。
まぁ、どちらにしても有り難い。平木のお陰で喋るきっかけが出来た。
『良くは知らん。助っ人を頼まれて出ただけだからな。』
事実を言っただけなのに、平木は益々目を輝かせた。
『助っ人で5人抜きって…すげえな!マーベルヒーローみたいだ。』
いやいや、その表現は止めてくれ。
『んな大袈裟な…。』
『大袈裟じゃないよ!助っ人でしょ?部員じゃないんだもん。凄いよ!』
杉山までが恍惚モードに突入してしまったようだ。目をキラキラと輝かせた。今まで以上にキラキラで、まるで星が浮かんでいるようだ。
これはヤバイぞ。話題を変えなければ。
恍惚モードの二人を前に、何と切り出そうかと迷っていたら、きっかけがやって来た。背後でバタバタと足音が聴こえたかと思ったら、アッと言う間に取り囲まれたのだ。
何事か?と見遣ったら、やって来たのは原口の取り巻きの数人だった。
(報復か?だったら二人を逃がさねば!)
咄嗟に腰を浮かせる。
そして、いつでも動けるように身構えた。




