暴君と端正くん(2)
『そいつ、原口ってんだけど…とんでもない勘違い野郎なんだよ。』
『勘違い野郎って云うか…周りが祭り上げてるからそうなるだけかもしれないよ?』
『どっちにしても勘違い野郎だよ!大したことないのに威張りくさって。嫌な奴って、絵に描いたらアイツになるんじゃねえの?』
『具体的にはどんな感じなんだ?』
二人のやり取りを黙って聞いていたら、いつまで経っても全容が見えそうもない。始業時間が迫っていることもあるし、先を促すべく、割って入った。
『自分はケンカが強いって云うのを自慢にしてて、力で仲間を従えてる感じなんだ。』
『ケンカが強いって言っても、誰も見たことはないかならな。本当に強いかどうかも疑問だな。そんなんだから女の子からもキャーキャー言われるし、自分はイイ男だからモテるとまで思い込んでる。』
『早慶選抜コースだから頭も良いしね。この前なんか、俺は無敵だ!って言ってた。』
『それだけならまだ我慢できるけど…アイツ、杉山に酷いこと言いやがったんだよ。』
鼻の穴を膨らませて、憤慨しきりで平木が言った。
『何て言われたんだ?』
杉山に訊ねると、眉を八の字に下げた情けない顔で教えてくれた。
『注目されるのは楽じゃないから、何の取り柄もない凡人のお前が羨ましい、って。それから、のろまなお前に出来ることは限られるけど、努力次第で取り立ててやるからしっかり励め、って。』
聞いた途端に虫酸が走った。例え能力があったとしても、他人を見下して馬鹿にする等、言語道断である。
浴びせられた罵詈雑言を教えてくれた杉山は、今にも泣きそうな程に悄気返っている。悄気返る杉山の隣で、平木は青筋を立てて憤っている。
『酷いな。まるで暴君じゃないか。』
口にしたら余計に腹が立った。同時に、過ぎし日に受けた理不尽な暴力を思い出した。
『そんな奴だから吉元君が心配になったんだよ。』
『昨日あれから杉山と話して、耳に入れといた方が良いんじゃないか?ってことになったんだ。』
『そうか。有難う、助かるよ。』
事前にそんな奴だと解っていれば、いくらでも遣りようがある。
『昼休憩が楽しみだ。』
目には目を、歯には歯を。
タリオではないが、杉山が受けた苦しみを理解してもらおうではないか。
『ちょっと怖いよ、吉元君。』
『お、お手柔らかに…』
ニヤリと笑う俺に対して、二人はたじろいだように口にした。
キンコーン、キンコーン…
始業5分前のベルだ。
『じゃあ後で!』
『地下の喫煙室だからな。』
『ああ、解った。』
始業前のベルと共に、其々の教室に戻った。
午前の講義が終わると、昨日と同様に荷物をまとめて教室を出た。ドアの前で誰かが声を掛けて来たが、聞こえない振りをして遣り過ごした。
今から暴君と対峙するのだ。ただでさえ体力を消耗するのに、事前での煩わしい(であろう)やり取りは勘弁願いたい。
教室を後にして先を急ぐ。
2階の売店に差し掛かったところで、女共に囲まれた平木と出会した。
『じゃあ、またね。』
待たされるかと思ったが、以外にあっさりと話が終わったようだ。女共に片手を挙げて、平木が合流した。
『杉山は先に行ってるよ。』
『そうか。』
『じゃあ、行こうか。』
『ああ。』
いよいよ噂の暴君との対面である。
果してどんな奴なのか?
まあ、どんな奴でも言い負かす自信はある。
まだ見ぬ暴君との口合戦に備え、頭の中でシミュレーションしつつ、平木と共に地下への階段を下りた。




