山伏と陰陽師(4)
そんな俺の思惑も、きっとこの人には筒抜けなのだろう。心の中での念仏を止めて、素直に進言した。
『食っても美味くないです。だから試さないでください。』
どうせ見透かされてているのだからと、包み隠さず真顔で言ったのだが…マスターは、
『マジで可愛いな。試さないから安心しな。』
と、大笑いした。 笑いながら手を伸ばして、俺の頭をクシャクシャと撫でた。
もう、リアクションをするのは止めた。どうせまた見透かされて笑われるのだ。
なすがままに撫でられた。
『あの…質問があるんですけど…。』
撫でられているうちに疑問が浮かんだ。
『なんだい?』
マスターは、ようやく撫でるのを止めてくれた。
『何故陰陽道を?身内の方に陰陽師がいらっしゃるんですか?』
再び撫でられないようにと焦るあまり、畳み掛けるような言い回しになってしまった。そんな俺に構わずに、
(どうせ見透かされているのだが、)
マスターは丁寧に説明してくれた。
『身内に陰陽師は居ないよ。俺の前世は山伏でね、それが解った経緯は、長くなるから省くけど…能力を活かす為に学んだのが、たまたま陰陽道だったんだよ。』
『そうなんですね。』
普通なら眉唾だと警戒するのだろうが、何の疑いもなく素直に感心した。今までのやり取りだけで、この人が本物だと確信したからだ。
『入り口で感じた違和感は、マスターが何かなさったんですか?』
『そうだ。この店には結界を張ってある。それに気付いたのはお前さんで3人目だ。』
『結界って…魔除けのアレですか?』
『そうだ。面倒事は商売の敵だからね。反社会的な組織の方々やら、面倒な輩を寄せたくないからね。』
『すごいですね。』
としか言えなかった。
ついさっき、実際に経験したのだから疑いようのない話で、内容が内容なだけに言葉が追いつかないのだ。
『因みに、そんな輩が店の前に立つと、結界が弾いちまうんだ。何かしらが起こって、結局店には入らずに帰っちまう。』
『事前に災難を防ぐんですね?』
『そう。善良なお客さんは弾かれずに通される。お前さんの場合は俺と同類だから、入り口で足留めを喰らったんだよ。』
『同類?』
『そう、同類。お前さん霊感あるだろう?居ないはずの連中が見えたり、人の死が事前に解ったり。』
『え?なんで…』
『さっき言っただろう?波長の合うヤツは手に取るように解るんだ、って。』
『あ…。』
そうなのだ。
俺には霊感の類いがあるらしい。
マスターに指摘された事の他に、生体エネルギーが色で見えたりもする。自分と反りの合わない人間の色を把握してからは、なかなか便利に利用している。
『確かに霊感はあるみたいです。家族では霊感があるのは俺だけだし、そのせいで、子供の頃は母親を困らせてたみたいです。』
『はは!ありがちな話だな。俺は寺の近くに住んでたお陰で、何か在る度に住職に相談出来た。そのお陰で悩まずに済んだけど、知り合いは精神科に連れて行かれたって言ってたよ。』
『俺は、人に言う前に母に言うようにと言い付けられてました。』
『そうか。親御さんは心配しただろうな。悪いモノじゃないんだが、理解してもらうのは難しい類の話だからな。』
『心配された挙げ句に捻くれたんです。』
『博識で、捻くれ者で男前って…お前さん、モテる要素しかないな。可愛いげがあるから野郎も寄って来そうだし。』
『 ………。』
『そう嫌な顔するなって。嫌なら修業するかい?防御力は飛躍的に上がるぞ。』
『いやいや、陰陽道なんて、俺には無理ですよ。』
『無理なもんか。それこそ本筋よ。お前さんの前世は陰陽師だからな。』
『 ………。』
信じてなかったが…やっぱりそうなのか?
数年前に祖母の友人に言われたのだが…その時は全く信じられなかった。
念の為に、陰陽師について調べたが…その結果、余計に信じられなくなった。
『まあ、修業したくなったら言ってくれ。俺のお師匠に引き合わせでやるよ。』
『いよいよ困った時はお願いします。』
俺がそう言って、マスターがまた俺の頭を撫で回した時に、厨房から声が掛かった。
『あいよ。』
と返事をして、
『そうそう、運命の女性の件だが…オーラですぐ解るから、心配するなよ。』
と、ニカッと笑って、マスターはカウンターへと戻って行った。




