第6話(新藤美咲)「“ご自由にお取りください”の罠」
今回は新藤さんのターンです。
社会人と学生時代は文化の違いが大きいですよね。
今日はそんな社会的”常識”に関してのお話です。
休憩室のテーブルに、箱が置いてあった。
新藤美咲は、そこに書いてある文字をじっと見つめた。
「ご自由にお取りください」とだけ書かれていた。
午前中の疲労で極度に糖分を欲していた美咲の脳は、
仕事の色々な事を考えつつ、注意力も散漫になっていた。
そして、この言葉を文字通り『自由』と解釈した。
(学生時代も、こういうの皆好きなだけ取ってたし)
美咲は個包装を二つ取った。
そして、少し遠慮して……三つ目も、取った。
そこへ、見知らぬ営業の男性が入ってきた。
「あ、それ、僕が持ってきた差し入れなんです。良かったらどうぞ」
美咲は軽く会釈。
「ありがとうございます。あの、自由……ですよね……」
「え、自由……」
彼の視線が、美咲の手元で膨らんだ小山に落ちる。
背後からコーヒーを淹れに来た田中が、
手元に個包装を一つだけ持ちながら囁いた。
「新藤さん……“常識の範囲内で”って空気、ありますよ、それ」
見えない空気が美咲の首を締める。
美咲は慌てて言った。
「いえ、これは……席で配る係なので」
「配る係?」
「はい、部署の……士気向上の……」
営業男性は一瞬、目が袋の山に吸い寄せられた。
「あ……なるほど?」
美咲の顔は、袋菓子より赤くなった。
結局、美咲は手の中の小山を抱えて、部署の席を回った。
「どうぞ」と言うたびに顔が熱くなり、
最後に自席で一つ口に入れたときには、もう味がわからなかった。
“自由”は、”自由”じゃない。
(つづく)
私も、社会に出た時、今回のようなお土産(均一の中身ではないもの)を、一番最初に取って怒られた事がありました。遠慮せい!と。文化ギャップ、教えてくれる方がいれば良いのですけどねぇ。




