第3話(田中厚太)「“ご査収”の圧」
今回は田中君のターンです。新人には社会の色々が初めてで難しいものですね。
朝イチ、総務からメールが来た。
『添付ご査収ください』
田中はその言葉を、儀礼の重さとして受け取った。
軽く「了解です」などと返すのは不敬。ここは誠意を見せるべきだ。
田中厚太は返信ボタンを押し、深呼吸して打った。
「拝受しました。精査のうえ、所見を添えてご報告申し上げます」
隣の席の新藤美咲が、ちらっとこちらを見た。
「……所見、って何の?」
「査収って、そういう……」
「いや、ただ“受け取ってね”って意味だよ」
もう遅い。田中は“所見”を書く責任を背負った。
添付は、健康診断の案内だった。所見も何もない。
(視力検査の重要性について論じるべきか……?
いや、ここは福利厚生への感謝と己の健康管理への誓いか……)
『当該健康診断は、健康維持に資する有益な施策であり——』
そこで筆が止まった。
昼前、総務の女性が回覧のついでに田中の席へ寄り、
印刷されたばかりの『所見』を覗き込んだ。
「え、所見って……これ、健康診断の案内ですよね?」
眉を寄せ、紙を軽く押し返す
周囲の視線が集まる。心拍数が上がる。
田中は紙を裏返し、最も社会人らしい笑顔で言った。
「いえ、健康は業務品質の母ですので」
「……はい、ありがとうございます。あの、上司に出さないでくださいね」
顔が熱い。
用紙を引き出しにそっとしまいながら、
最後に田中は付け足した。
「査収の重みを、忘れたくなかったもので」
重いのは、田中の羞恥だけだった。
(第4話に続く)
大変申し訳ございません。こちらは4月13日(月)投稿予定の1話でございましたが、誤って本日公開してしまいました。
第2話は追加投稿してあります。
第3話はこのままお楽しみいただけますようお願い申し上げます。
これによりまして、4月13日(月)の投稿はございません。
大変失礼いたしました。
以降このような事が無きよう、一層留意いたします。




