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新入社員・田中君と新藤さん(短編連作)  作者: 遠藤 世羅須


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29/30

第28話(新藤美咲)“タンパク質”は、お茶より重い

新藤さん、課長から呼ばれました。

顧客訪問同行のようです。

私はメーカーの資材課勤務。

入社して間もなく、まだ”仕事ができる人”の段階ではない。

先輩たちも優しく指導してくれる。

早く一人前の会社員にならないと、とは思うけど、

同期にゆで卵をもらうのが、私の憧れた会社員だったっけ…


……でも、


今日の仕事は、

そんな甘いことを言っていられないほどハードルが高かった。

課長と取引先の会社に行き、

納品ミスがあった事に対して、

再発防止と品質管理の徹底を求める訪問だ。


本当は先輩が同行する予定だったんだけど、

別の急なトラブルで、私に白羽の矢が立った。

取引先と顔を合わせておいた方が良いということらしい。


課長が

「厳しい話をするのは俺。

 新藤さんは、隣で笑わず、落ち着いた顔して座っていればいいからね」


課長はそう言ったが、その目は「空気は読んでおいてね」

って顔だった。



課長と先方の会社に着いて、

生産・梱包工程を見学する。

色々と専門的な説明を受けるが、

私は「無表情を維持すること」だけで精一杯だ。

挿絵(By みてみん)


応接室に座ると、事務員さんがお茶を出してくれた。

課長は厳しい表情で、先方の部長と話をする。


私は、言われた通り、彫像のような無表情を貫いた。


その結果、意識がふっと「異世界」へ飛んでしまった。


(タンパク質摂るのはやっぱり卵?

 プロテインバーは無しよね)

挿絵(By みてみん)


すると、

事務員さんが後ろからひっそりと

「お茶のおかわりは」と言いかけて、

先方の部長が引き取る。

「新藤様は何がよろしいですか?」

と聞いてきた。


一瞬で、異世界から現実に戻ったが、

何を問われたのかわからなかった。

聞いていなかったとは言えない。


課長が察して

「好きなもの言っていいんだよ」

とフォローしてくれる。


頭に血が上る。どうしよう。

何か言わなきゃ。


そして、私の口から出たのは、

直前まで考えていた「それ」だった。


「…タンパク質を」


課長の眉が、0.5ミリだけ上がった。

事務員さんの手が止まり、

先方の部長も「えっ?」と固まった。

室内を支配していた「厳しい空気」が、

一瞬で「困惑」に塗り替えられていく。


「いえ、お茶で……失礼しました」

私は蚊の鳴くようなか細い声で訂正した。


先方の部長が、一瞬の沈黙の後、柔らかい声で

「もう一杯お茶を」

と事務員さんに言ってくれた。


課長が

「いやあ、最近健康に気を付けろって皆に言ってましてね…ははは」

と泥沼のようなフォローを入れる。

挿絵(By みてみん)


その後、なぜか場が和やかになり、

交渉は笑顔で終わった。


会社を出たあと、

課長が言った。

「緊張させちゃったね。大丈夫。気にしなくていいよ」


優しい。


だけど、その優しさが一番刺さる。

帰り道の景色はほとんど覚えてない。


でも、昼に食べた「ゆで卵」の味だけは、ずっと喉の奥に残っていた。


(つづく)


※「聞いて無かった」時の対応って、

 一瞬心臓跳ねますよね。

 上手く誤魔化せれば良いですけど、

 私も頓珍漢な返答で恥ずかしい思いした事あります。

 社内会議だと、怒られたりして。

 あ、学校の授業でも鉄板ですね(笑) 

「聞いて無かった」時の対応って、

一瞬心臓跳ねますよね。

上手く誤魔化せれば良いですけど、

私も頓珍漢な返答で恥ずかしい思いした事あります。

社内会議だと、怒られたりして。

あ、学校の授業でも鉄板ですね(笑) 


次話、最終回となります。

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