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新入社員・田中君と新藤さん(短編連作)  作者: 遠藤 世羅須


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第29話(最終話)「そうですね」の温度差

最終話となります。

最後は「共同作業」になります。

週末の会社イベントに、資材課から新人二人が駆り出された。

田中と新藤さんだった。


課長から指示され、準備を手伝いに行くことになった。

展示会場まで、新藤さんと電車で移動する。


車内で、田中は

「イベント、会場大きいそうですね」

「そうみたいですね」


「天気いいですね」

「……そうですね」


田中は、“同期”の会話の距離感がまだつかめない。

特に、仕事上はどこまで話して良いのか……


「先輩たち、やさしいですよね」

「そうですね」


会話が続かない……


前の席が一つ空いたので、

新藤さんに勧める。


「どうぞ」

「いえ、田中君こそどうぞ」

「僕は大丈夫です」

「私も大丈夫です」


譲り合っているうちに、年配女性が腰掛ける。


「あっ…」


ちょっと気まずい。

話題を変えよう。


「そういえば、『自己申告シート』出しました?」


新藤さんの眉がピクンと上がる。

そして、なぜか目を伏せる。


そのまま

「出しました」

と、か細い声で答える。


(何かまずいことを聞いたのかな?……)


「僕はギリギリでした。もっと自己管理しないといけませんね」

新藤さんは、やはりか細い声で、

「そうですね」

目は下を向いたままだ。


それ以降、窓の外を流れる景色だけが二人の時間を埋めた。


会場に着き、教えてもらった場所に向かう。

自社ブースの辺りに大勢の社員と思しき人たちがいる。


「お疲れさまです。資材課からお手伝いに来ました」


「おう、ありがとう。じゃあ、早速だけど……」


色々なセッティングや荷物運びを手伝う。

新藤さんは、ディスプレイ関係の手伝いをしている。

挿絵(By みてみん)


「おーい、これ運ぶの手伝って」

「はい」

二人が呼ばれた。


段ボールを動かす。

重い箱だけは、自然に同時に持つことになる。

新藤さんが

「田中君、手伝って」

「了解」



ひと段落したところで、

営業の偉い人と思われる人が笑いながら

「はい、お疲れさま」

とコーヒー缶を二人にくれる。


「会社はどう?」

(来た、社会人の雑談)


「はい、皆さんがとても良くしていただき、ありがたいです」

「そうか、それは良かった。

 資材課の課長は良い人だからね」

「そうですね」

田中は汗を拭きながら言う。


そして、

「息、合ってるね。同期はいいものだね」

と言いながら去っていく。

挿絵(By みてみん)


二人は少し赤くなりながら、コーヒーをいただく。

田中は

「新藤さん、初めての共同作業でしたね」

新藤さんは、少し驚いた顔をする。

そして、一拍置いて

「共同作業は……重いです」


(あれ?このフレーズどこかで……あっ)

「……そうですね」

田中の声は細い。

顔が熱くなる。


しかし、新藤さんが続けて

「でも、健全でした」


田中は少しだけ救われた気がして、

「……そうですね」


二人の目線は別々に泳いでいた。


でも、”そうですね”が少し軽く言えた気がした。


健全に。

そして、前より少しだけ自然に。


季節は、春の終わり。

夏が近いと思わせる陽気だった。


新人という言葉も、少しずつ似合わなくなっていく。

それでも、やはり”普通”が一番難しい。

だからきっと、明日も二人は赤くなる。



(完)

お読みいただきありがとうございました。

本作、本話を持ちまして終了となります。

まだまだ新人の二人ですが、

またいつの日か、彼らの活躍が見れる日が来ればと思います。

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