第24話(新藤美咲)「敗北の“冷凍うどん”」
同期が近くに居るとわかった新藤さん。
少々焦っているようです。
美咲は焦っていた。
休日のスーパーで同期に会う。
何とも落ち着かないシチュエーションだ。
心が会社に戻される。
しかも、よりによって買い物かごの中を見られてしまった。
冷凍うどん…
あちらは鶏むね肉と卵。
(……私、料理や家事ができない女だと思われたんじゃないか。
いや、別にそう思われても困らない。
困らないけど、なんか悔しい。糖分はいいけど)
田中君は鶏むね肉とか買って、
あれは料理してる。
見た目と違い、しっかりしてそう。意外。
見せつけられたの?
レジで敬語で仕返ししてやったけど、焼け石に水ね。
それにしても、近くに同期の男性が住んでいるという事実は、
想像以上に恐ろしい。
休日もすっぴんでは歩けなくなる。
近所の安くて美味しい定食屋にも、うかつに入れない。
通勤電車の車両だって、
鉢合わせないように計算しなければならない。
極端な被害妄想だと分かってはいるが、
会社での冷やかしを想像しただけで冷や汗が出てくる。
これで、SNSでも繋がったら日常が会社になってしまう。
落ち着かなければと思い、
歓迎会では趣味と言えなかった、
最近はまっているリラックス動画を見ることにした。
ゆったりした音楽と美しい自然の映像が流れる。
深呼吸をして、心地よい感覚に身を委ね、
しばらく雑念を忘れ、椅子にもたれる。
聞き終わったあと、
暫く何も考えることなく精神を整え、
やっと平静を取り戻した。
夕食の時間になる。
さて、夕食は…と。
”冷凍うどん”だ。
いきなり現実に連れ戻される。
スーパーの記憶が色々フラッシュバックする。
(うどんだって立派な夕食よ)
自分に言い聞かせて、うどんの夕食を取る。
醤油と出汁の香ばしい湯気が立ち上る。
ツユの中に折り重なる麺を見ながら、
「…卵も買ってくればよかったな。田中君、買ってたな」
ポツリとつぶやき、慌てて首を振る。
どうしてここで彼が出て来るのか。
「私の夕食時間にまで来ないでよ」
誰もいない部屋で言ってみたが、
途端に顔がカーッと赤くなる。
もう、関係ないんだからね。
少々パニックになっている自覚はある。
美咲はうどんをすすりながら静かに決意した。
次の週末は、絶対に鶏むね肉と卵も買おうと。
(つづく)
スーパーでレジに並ぶ時、
目が行っちゃいますね、他人のカゴに。
別に見る気が無くても目に入る。
ちょっと生活が見えてくるカゴ。
「比較対象」の恰好の餌食です(笑)




